夜行船の中で眠ることも出来ず
明け方、とにかく落ち込んだ気分と体調で鬼兵隊の船に帰船する。
いつも黒しか身にまとわない自分が赤い衣類を着ている姿が窓ガラスに写り込むだけでため息が出るのに
それが災難をもたらす忌々しい人物の着用品だと思い出すと湿疹まで出てきそうである。
この姿はなるべく誰にも見られずにいつもの服装へ戻りたい。
自分に割り当てられた部屋への最短コースを到着する前からシュミレートする。
戻って来た船は…明け方といえどなんだか人気が無い。
それはそれで今の自分にはありがたい事だが
何か…違和感がある。
だが拍子抜けと同時に少し落ち着いたのでゆっくり静かに歩く。
本当は帰船と共にコートを脱ぎ捨ててしまうつもりだったのだが
予想外の人のいなさと、担いでいる三味線を一度おろして上着を脱いで…
という行程がちょっと面倒臭くなったのだ。
そしてとうとう高杉はもちろん、武市や来島にすれ違わず部屋まで戻れた事にちょっとした達成感を感じた。
(これでやっと…)
息を吐いてドアノブを捻る。
ガチャリ
パパーン!!!!
「万斉先輩!!!!お誕生日おめでとうっす!!!!!!」
開いた瞬間にカラフルな紙くずが自分をめがけて飛んで来た。
硝煙の匂いが喉に入るのと同時に目を剥いて驚いた表情が目の前に3つ並ぶ。
「…え…万…斉…先輩…?」
「おやおや…河上すわん…その出で立ちは…」
「…」
一瞬の間を置いてまた子の大きな笑い声が船内にこだました。
「万斉先輩!!!!!なんすか!その格好!!!!ヒーッ腹痛いっすぅもう勘弁して下さいよぉ!
こっちが一生懸命サプライズでお誕生日祝おうと思ったのに万斉先輩自らサプライズとか…さっすがエンターテイナーは違うっすねぇ!」
「別にこれは…」
「まったくですよ、また子さんが驚かせたいというからずっとスタンバッてましてねぇ…なのにこちらが驚かされるとは…
河上すわん…誕生日を境にイメチェンでもする気なんですか…はっきり申し上げて…」
「万斉…てめぇは…赤が本当に似合わねぇなぁ…」
「ですよねぇー晋助様!晋助様もそう思うっすか!同感っす!あーおかっしいっすー!ぎゃはははははははは!」
3人揃って好き勝手なことを言っている。
一番見られたくなかった相手3人に見せ物の様に笑われてしまった…
そしてこの時まで自分が今日誕生日だということもすっかり忘れていた。
呆然としていると隊士の一人が紙包みを運んで来た。
「万斉殿ー?万斉殿?お届け物が一点…」
「あぁ…なんでござるか…」
「快援隊の陸奥殿からです、衣類、と記載されていますが…」
快援隊の船からクリーニングに出されていた自分のコートだろう…
薄い包み紙を開けると一枚ポラロイド写真が出て来た。
写真には…自分の黒いコートを身にまとってVサインをしている坂本の姿が写っている。
フィルムの白枠に「また着来てくださいね」と厭味ったらしい標準語の殴り書きに気がつき、
その場でくしゃり、と握りつぶした。
「このコートを再びクリーニングに」
「えっ、でもこれ今クリーニングされたばかりなんじゃ…」
「かまわぬ、防虫加工も共にお願いする」
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そんな散々な誕生日を過ぎ、梅雨のじめじめとした湿気もそろそろ終わりに近づいた一ヶ月後のある日、
再び送り主の欄に「快援隊」と書かれた小包が届けられた。
今度は箱に梱包され丁寧に包装を施してある。
まず送り主に警戒して小包をそっと開けた。
爆発物では…ない。
代わりに収められていたのは、上質な素材の、品の良い黒のコートだ。
(この前のいい加減な採寸がどこまでできたのか見ものでござる)
ばっと裾を翻して袖を通す。
…
恐ろしいぐらい自分の体がすっきりと納まった。
驚いた。
あんないい加減な採寸でオーダーメイドなどできるのか。
束の間の感動の後、コートの右ポケットにメモが封入されていることに気がつく。
メモをかさかさと開くと綺麗な文字でこう記されてあった。
「河上殿 先日の件は誠に申し訳なかった。クリーニングの為にお預かりしたコートを参考にオーダーメイドをしたのだがサイズ感はいかがじゃろうか…」
左のポケットにもメモが入っている。
「万斎君!2011,6,20 お誕生日おめでとう!!サイズぴったりじゃろぅ!気に入ってくれたかぇ? 坂本辰馬より」
一瞬でも坂本の採寸をすごい、と思ってしまった自分に猛烈に腹が立ち
2枚のメモをくしゃくしゃに丸めて部屋の隅へ投げつけた。
…end
と見せかけてもういっちょ!→3
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計量にまつわるエトセトラ!終了!万斉お誕生日おめでとう!ちょっと不憫な内容ですがいじりたくなるのは性なのでしょうがない。
本当はメジャーでぐるぐる巻きにしたかったのですがなんか生々しい採寸にしてしまいました。
そしてこのネタを一緒にかき混ぜて下さったUltra Violet Bのうめ様、ありがとうございました!
5月20日は万斉の誕生日と共に世界計量の日ということでこのネタになりました。
タイトルの「I'll be back」とはbackとblackをかけた駄洒落です。河上の帰還と黒への帰還。
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