ドアを捻る音からリビングへ侵入してくる足音が妙に大きく感じた。
組み敷かれているソファからリビングの入り口は見えない。
「今、帰った」
「おー、お疲れさま、おかえりんしゃい」
息を飲む。
相変わらず坂本はへらへらした態度だ。
ごとっと重さのある荷物が床に置かれたのはわかる。
フローリングの上を足音が移動していく。
部屋の様子がわからないので耳を澄ますしかない。
「また懲りずに飲んでいるのか」
「あははははーいい酒の肴があったんでな、ついついすすんでしまっての」
声が近づいてくる。
「まぁ…だいたい予想はついていたが…」
ぎしっと近くで音がなり背もたれに手をついて覗き込んだ。
まるで鏡を見上げている様な。
自分に見下ろされている。
「いい眺めだ」
動揺する様子もなく不敵な笑みを向けられた。
「あはははっはーさっすが河上君肝が座ってるぜよ」
「正気かっ…いい加減に…しろ」
「ほぅ…本気で抵抗したのか、坂本がここまでするのはなかなかないぞ」
そう言いながら縛られた手首を軽く掴んでぐっと持ち上げつつも、パッと離しその場から離れていく。
ちょっと力が抜けた。とんでもないとことに頭が混乱している。
「ちょっとぐらい嫉妬の表情でもしてくれればの…わしも満足なんじゃが…んじゃ遠慮なく続きもいただくぜよ」
ちぇっと小さく舌打ちした坂本は先ほどよりやや荒い手つきで体を弄り始めた。
再び触れる素肌に熱が灯る。焦りや不安が煽られる。
コートは前が全開になり、長さの重みで裾がソファから床へ落ちた。
はだけた胸元から腹部を晒して仰け反る度に浮き上がる肋骨をざらざらとした舌が往復する。
時折歯が当たるが執拗に舐め続ける舌の動きに脳の端にじんわりと波が起きる。
ぐっと歯を食いしばっているうちにズボンの中に手を差し込まれる。
「…っ!…」
「おぅおぅ…窮屈じゃろうにのぅ…」
「やっめっ…」
頭上でカラカランという音が頭上に響いた。
信じられない。
音と共に河上がグラスを片手に戻ってきた。
「なるほど酒の肴にはちょうど良い余興だ」
「河上君、こっちは万斉くんに感じてもらうに一生懸命なんよ、ちゃかさないでつかぁさいっ」
サイドテーブルにグラスを置きソファのすぐ脇の床に座り込む。
ひどく意地の悪い表情をした己の顔に再び覗き込まれる。
顔を背けたい。が、下半身から沸き上がる刺激にどうする事も出来ず
さらに痴態を見られているという羞恥心に血液が一気に逆流し始める。
呼吸は荒くなるまま頭痛がする…
「坂本、その指を、こう動かして」
「っくぅ…っぅ……はっ…ァ」
「お、やはり同じ所で感じるのか…見てて飽きない…自分と同じ顔に見られているというのは興奮するのか?
こんな格好さらして…」
河上はそのまま立ち上がり、その場を去るのかと思いきやそのままずっと見下ろしながら
時折グラスの中の酒を舐める。
そうしながら見下ろしたまま軽く足を上げて
興奮状態が頂点の坂本の腰にかかとを落とした。
ガターン
と大きな音がなりおとなの男二人分の体重が床に落下する。
それをみてケラケラと笑い、落下した二つの裸体にかわり、
河上がソファに腰掛けた。
その笑い声につられ、坂本が低く笑い声を上げ、力を込めて万斉をうつ伏せに床に押し付けた。
そのまま後ろから犯す。
「っ…はぁっ…見…るな…っ」
貫かれながらも視線が気になってしょうがない。
心理的な視線に快楽を感じているのか物理的な衝動に感じているのか
もはや今は何もわからない。
屈辱的な仕打ちとは逆に興奮した神経が刺激をすべて受け入れて快楽の頂点に昇っていく。
断片的に深夜に覗いた河上の恍惚をした表情を思い出す。
(ちがう、あれは 拙者では ない)
「あんたは自覚がないだけだ。現に視姦されながら快楽に溺れている。十分変態だ。」
そう心を見透かされた様な言葉を掛けられながら、
高い位置からパシャパシャとグラスの中のアルコールを掛けられる。
うつ伏せて息を付いている目の前に水たまりが出来た。
その水たまりを踏みつぶし、目の前に河上がしゃがみ込む。
ぐっと顎を掴んで上に反らせ、口づけをした。
坂本の口づけと違い、咥内の奥へ差し込む口づけに
ウイスキーの香りが鼻の奥を微かに刺激したと同時に
律動に耐えきれず下半身に溜め込まれた刺激とが体の中心で結びつき
目の前が深く、真っ白になり床に崩れ落ちた。
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ガクンと落ちる感覚。
それとともにビクリとする筋肉。
恐る恐る目を開けてみるとそこは見慣れた和室の天井板の木目がこちらを見てる。
障子を差す光は弱く、恐らく明け方。
少し起き上がると背中にゾッと悪寒が走る。
気がつけば寝汗で寝間着が背中に張り付いている。
(…?)
額にも汗を感じ、その腕で拭おうと試みた時に
カチリと冷えた刺激がした。
はめた覚えのない銀色のバングルが手首に撒かれている。
ぞわぞわと下腹部辺りから鳥肌がこみ上げる。
あわててバングルを外し襖に向かって投げつけた。
襖にあたったバングルが跳ね返ってころころと戻って来る。
枕元に置かれた時計にコツリとあたりその場でぴたりと停止した。
…end
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長々とお付き合いありがとうございました。
ちょっとどうしても3pみたいなのを書き散らかしたくて衝動にまかせたら
まとまりのない長い文章に…しかも3pではない…
世にも奇妙な風パラレルと思って頂けると幸いです。(2011,2,17)
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