2Rooms

 

Room 1

 

 

入室。

 

 

 

ドアを開けると見知らぬ男が一人。

 

前髪が長く目の見えないあごひげの男がソファに前傾姿勢で座っていた。

 

いつも傍らに居るあの陸奥という女性は今日はいない。

 

何者…だ?一見した所忍び装束のような服装。

だが、コートを羽織っている。

 

まぁ自分の用事には差しつかえないでござろう。

見た所帯刀もしていない。

 

こちらの視線に気づいているのか気づいてないのか

ずっと組んだ手を口前に当てている。

 

 

「おお、そうじゃぁわしわのぉ ぼでーがーどっちゅうもんをつけとるんじゃぁ

もっとも今回の江戸滞在の期間のみなんじゃがの、こう見えてもわしに脅迫状が届いたんぜよ!」

 

脅迫状が届いた割には嬉しそうに話す。

なるほど、護衛の者でござるか。

坂本殿の商売も商売だからシークレットサービスを雇うのになんの違和感もない。

見るからに口の堅そうなこの男を気に入りそうなのも分かる。

 

一抹の怪しさはあるが。

 

商談に同席はしないだろう、と予想の通り。

その男は部屋に残したまま商談室の扉を坂本自らが開け、

招き入れられた。

 

 

 

 

 

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商談室に通されるなり、いきなり手首を掴まれた。

そんなことだろうと予測して、希望の武器リストを書いた封書はバランスを崩す前に

無理矢理赤いコートのポケットへねじ込んだ。

 

ドサっという音と共にソファに座らされた。

 

「ささ、お客様やきね、ソファに座ってもろうてゆーっくり商いの話せんと」

 

座っている目の前に立ちはだかった男は、サングラスで目は見えないが口元はにやにやと笑っている。

 

「拙者、ゆっくりはなす必要などござらん。渡す物もお渡ししたので、今日はこれにて」

 

立ち上がろうとした肩を上から押さえつけられる。

 

「つれないのう…」

 

 

もじゃもじゃの頭がゆっくりと影になって降って来た。

 

 

 

 

 

 

接吻をする。

 

 

 

 

坂本との接吻は目を開けたままする。

目を閉じた表情など晒したくもない。眼力を込めて目の前のグラサンの奥の目を焼く様に睨む。

 

隙あらばその舌噛み切って殺してやる そんな気分でござる。

 

大きな手が後頭部の髪の毛に差し込まれる。じゃりと頭皮と髪が擦られる音。

ヘッドホンのバンドを掴まれてずるりと外され耳が露になる。

 

涼しい

 

髪に差し込まれた指が耳まで戻ってくる

左右対称の動きだ

 

耳上部の軟骨を親指でなぞる

そこからを穴の入り口まで乾燥した親指が這う

耳と指がこすれ合う、がさがさという音が耳管に響く

 

 

耳をいじられるのがもの凄く嫌だ。

自ずと表情に出る。さらに睨み上げた。

一旦唇が離れて、舌打ちをされた。

 

正直、接吻をした感覚は面白いほど残っていない。

 

 

「ふん、相変わらず色気の無い表情じゃ…」

 

「坂本殿、拙者は音以外のものが耳に触れられるのが苦手な故」

 

言っても無駄なのも承知の上 わざわざ苦手といったら余計にやる、それも想定内

 

ため息をつく。

 

「得意だろうが苦手だろうが、色気の一つも見せんのじゃろ、おんしはぁ。

頼みごとをしにきちょるんであればそれなりの態度、ちゅーもんを見せぇや」

 

じっと睨む

 

「はっ、聞く耳を持たぬ男じゃのぅ……」

 

「そんなに嫌ならその耳、わしが塞いでやるき、おまんは自分の内蔵の音でも聞いとけ」

 

 

そのまま肉付きのよい厚みのある手のひらで耳をぐっと塞がれた。

 

再び耳が外気から絶たれる。

 

もわん、とした塞がれた耳管の中で空気がこもる感覚。

どくんどくんと脈打つ血液の音は確かに分かる。

 

耳を塞がれた、両手で挟まれた状態のまま頭を引っ張り上げられ顎を上げさせられる。

 

再び口が塞がれる。2度目は最初から薄く開いた唇に大きく噛み付くように始まったかと思えば

湿度をしっかり持った舌が遠慮なく、にゅるりと咥内に侵入してきた。

 

その拍子に

 

ぐ…ちゃ…

 

 

頭蓋骨中に卑猥に湿った音が響き始めた。

 
 
 

…あっ…

 

 

っなんて…音だ…

 

 

 

 

くちゅ…くちゅ    と 舌が合わさり合う音

じゅっ… ズズッ…  と 口端から溢れそうになる唾液を吸い上げられる音

 

 

 

「っ…」

 

 

 

咥内でうごめき擦れ合う舌の動きと唾液の音が

塞がれたとこによって耳管に酷い音で反響しあう。

 

 

耳の中にねっとりとした水分を注ぎ込まれたような感覚。

目を閉じてしまいそうになる。

 

 

抗いたくて無駄に足を動かした時、ローテーブルの脚にぶつかった。

 

 

ゴトッッ

 

 

既にテーブルから半身出て落ちそうになっていた。

ガラスの灰皿が落ちて鈍い音を立てた…。

 

(っ…しまった…今の物音でドアの外の男が入って来たら…)

今更、ドア外にもう一人人物がいることを思い出して余裕が無くなる。

 

 

片目をつぶり眉間に皺が寄る

カッと頭に血が上る

 

その表情に満足したのか、すっと唇を離した。

 

 

「安っぽい技術だがの、ふーん、まんざらでもなさそうじゃなぁ」

 

塞いでいた耳が解放される。

唇を拭い、耳を塞いでいた手のひらをぺろり、と舐めた。

ニヤニヤと笑っている。

 

 

 

 

次の瞬間、その舐めた片手のひらでぐっと首を掴まれた。

掴まれた、というより絞められたという方が近いだろう、

徐々に込められていく力

気道が圧迫される…

 

 

「今日の所はそれで頭金ということにしといてやろうかのぅ」

 

 

と、言い残しぱっと手を離してあっはははははーと言いながら商談室を出て行った。

 

耳が汗ばんでいる。首筋に垂れて行く汗もそのままに、少しの間嘔吐いた。

 

 

そしてやっとの思いで立ち上がり、身を整え自分も商談室を後にした。

 

心底厄介な人物だと思う。そして自分も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そして2部屋目へ

 

 

 

 

 

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