The wild wind
初夏のころは
天気が良ければ風は心地よく また悪ければ蒸し暑く不快でありながらも
なぜか浮ついた地に足の着いていない様な気分にもなるものだ。
外の暗さが室内の明るさをガラスに反射させる。
ガラス越しに外を眺めるために部屋の電気は消す。
日中とは思えない薄暗さ。今にも降り出しそうな曇天。
風はひどく強いようで、
低く上空を埋める灰色の雲の海がうねりを上げながら流れていくのを、
無風の室内から眺める。
気圧が低いせいかやや呼吸が苦しい。
こういう時期は天気が不快な方がいい曲が思いつく。
我ながらやっかいな性格でござるな。
そんなことを考えながら譜面に黒い点を埋めていく作業を進める
どれぐらい経ったのだろうか
ふいにドアをけたたましく叩く音に我に返った
鍵を解錠したとたん、外からがちゃがちゃとノブを回される.
鍵を、開けなければ良かった
と思った時にはもう遅く。
一瞬の隙間から見えたもじゃもじゃの頭を確認し強く扉を閉めようと力を入れたが
風圧のかかったドアは重く、無駄な力を利用されそのまま隙間に体をねじ込められる
片手で体全体でドアを引く相手の力を抑えられるわけもなく、
次の瞬間ドアは全開にされた
ブゥワァッッッ!!!!
無風の室内にゴォっと蒸し暑い風が吹き込む
「あっははははー!万歳君!久しぶりじゃぁ!!」
と、いつもなら大きな声で飛びかかってきそうだ
が
今日は無言でずいっと侵入してきた。
開け放たれたドアから風が吹き込み続ける
室内の紙という紙が舞い上がる
スローモーションのように、書き上げた譜面が風に巻き上げられるのを確認した。
その後も容赦なく吹き荒れる横殴りの風に髪が乱れる 。
乱れた髪がサングラスの隙間から片目に入りひどく痛い。
ヘッドホンを通してゴオゴオと風の鳴く音が響く。
めくれ上がったコートに舞い上がった紙が絡む
立ちはだかる男はドアを閉めるつもりはないらしい。
相変わらず無言である。
その威圧感にこちらも表情を変えぬままわずかに後ずさった
その距離も、じりっと詰めてくる
その男は土足のまま距離を詰め、ふいに手を伸ばし襟を掴んだ。
すり落ちたサングラスから上目遣いに睨む目が覗く。
いつも饒舌な男が黙るとえらく不気味だ。
だが自分だってもう、この男の前では簡単に表情は変えない。
乱れる髪もそのまま、
「この様な悪天候の中、何の用でござるか。坂本殿」
冷たく言い放った。
「何の用かっちゅーと」
今日初めて口を開いた。
と同時に襟をつかんだまま足をすくい上げられバランスを崩し床に背中と肘を打ち付けた。
散乱した譜面の上に倒れ込んだのがわかる。動くとがさがさ、ビリビリと紙の音がした。
「万斉君のその鉄壁の髪型が乱れるところが急ーに見たくなってのぅ…あっはっはははー!バッサバサじゃの!」
心底憎たらしい。こいつも風ごとどこか遠くへ飛んでいけばいいと切に思ったが、
今きっとそれが表情に現れていないだろう自分を少し憎んだ。
睨むためにだったらサングラスをはずしてもいい。
…
そんなことを考える時点でこの憎たらしい男の思うツボなのかも知れぬ。
まったくもって不愉快極まりない…
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はい、紅桜編の万斉の髪の毛のしなやかさに挑発されこんなことに。本当、あのなびき方の破壊力半端なかった。
あれ固めてるんじゃないのですね?なんていうかヘッドホンがヘアバンド的になっているような描写でもありますよね。
ところでこの舞台はどこ?状態ですが、万斉様は作曲のために隠れ家缶詰中です。
ホテルではなくマンションの一室的な。勝手にもっさんとの密会場所とかになってたりとかね。
いいですよね、セカンドハウス。
しかしいつも饒舌な人間が黙ると怖い、という。
さてこれから坂本が万斉をどうするかって?それはもうあんなことするしかあるめぇよ!
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