Summer night

 




暑い。暑いのだ。

うだるような熱帯夜。


冷房の切れた夜半過ぎ。

この時間帯に目覚めてしまうと運のつき。




 

夏休みに入ってしばらくぶりに坂本先生の家を訪ねた。

同級生などが部活の合宿にでしごかれている時期だろう。

 

坂本先生は今回どこの部にも同行しなかった。

日直の仕事を終えたタイミングでアパートの前で待ち伏せをして

そのまま近所のラーメン屋で夕食を奢ってもらった。

坂本は待ち切れずビールを頼んだ。

河上にはもちろん分けてはくれなかったが

つまみでたのんだゆでたての枝豆が思いのほか旨く、

無言でぷちぷちとはじき出し淡々と口へ運んだ。

「せっかくわしのつまみで頼んだのに」そう言いつつも坂本は笑顔でほおづえを付きながら

その様子を眺めていた。ラムネが追加された。

 

クーラーの効いた店であっついラーメンを食べるのはなんというか贅沢の一つだ。

そして坂本はよく食べる。ビールを飲み干し、味玉をトッピングした替え玉し、

食べ終えた後は、食った、食った、というように腹をさすった。

そういう仕草はすごいおっさんくさい。

 

ラーメン屋から帰る途中、コンビニによって60円のアイスを買って食べながら帰る。

途中の公園で半分になったアイスを食べながら坂本はポケットからねずみ花火を取り出し

ラーメン屋のマッチで火をつけた。砂場の手前でシュルシュルとはじける。

一つ、投げるのに失敗して坂本が花火に追われるような状態になった。

いい年をしてばかみたいだと思ったが、その動きが滑稽だったのでとても楽しめた。

コンビニのビニル袋に水を溜め、坂本の足もとめがけてぶちまけた。

 

「な、なにするんじゃ!おんし!」

「先生に火が付くと危ないでござる」


水と砂でドロドロの足でこちらに向かって突進してくる坂本を交わして

再びアパートの前まで走って戻ってきた。

 

「うぇ飲んで食った後に走るのはきついぜよ」

 

 

脂汗をかいたグロッキーな表情で部屋のカギを回す。

一緒に買ったロックアイスを素手で持ち歩いたのでだいぶ手がびしょびしょだ。

袋の底にわずかにとけた水がたまっている。

 

坂本は帰宅と共に泥だらけの足を洗うべくシャワーを浴び始めた。

こういう時になにかこうその先にある生々しい予感を感じて地味に緊張する。

そして自意識にまみれた緊張に自分で気づいて嫌気がさす。

 

ロックアイスを冷凍庫に放り込んで乱暴に扉を閉める。

重さのない扉の閉まる音は地味な音で、空振りした感覚の様な妙なイライラをつのらせる。

気が付いたら自分も汗だくだ。

 

開け放たれた網戸から風が入る気配はない。

 

あーと言いながらトランクス一丁の坂本がもじゃもじゃの頭をさらに爆発させながらよろよろと風呂場から出て来た。

戸棚をなにやらごそごそ漁るしぐさを見せると、ほい、と坂本が使っているそれよりもやや新しいバスタオルを投げられた。

何度か使ったことのあるチャコールグレーのバスタオルだ。普段用ではないのだろう。

 

促されるままシャワーを浴びる。

 

水を浴びてしまったら自分の髪型は終わりだ。髪の毛はすべておりてくる。

自分でもあげているから気が付かないが結構な長さがあるな、と

雫の垂れる前髪をじっと見ていると結構時間が経っていることがよくある。

 

坂本は既にテレビをつけロックアイスをグラスに入れ部屋をフラフラしていた。

突拍子もないところ、たとえばソファの上からウイスキーの瓶を見つけ出し

グラスに注いでソーダーで割ってうまそうに飲む。

 

開栓したカナダドライのクラブソーダをボトルごと渡される。

 

おんしはそれでも飲んどけという風である。

 こうやって無言で年齢差みたいなものを押し付けられるのだ。

 

別に文句は言わない。自分だってそういう部分をうまく利用して滑り込んでいる身でもあるのだ。

反抗のひとつでもした方が可愛いのかもしれないがそういうのには、乗らない。

 

映画やくだらないバラエティ、スポーツ番組を見ながらだらだらする。

坂本はグラスを傾け続け、座る姿勢がだんだんとだらしなくなってくる。

気が付くと部屋は冷房で冷えている。どのタイミングでスイッチをいれたのだろう

ちょっとゾクリとした時には

手首をつかまれ体を倒されウイスキー味の舌が咥内に侵入し始める。

そのままもうなすすべもなくセックスへなだれ込む。

いくら痛いと言っても夏は必ず床へ組敷かれる。

ゴツゴツと肘があたるが床はとても冷えている。

Tシャツの裾をめくられて背中が床に触れる時ぞくりと身震いをする。

その身震いをどう勘違いしているのか知らないが

坂本の手や舌が調子に乗った動きをやめない。

 

行為の終了後腹や背中におでこをつけたまましばし動かない坂本をゆっくりどけて

 

自分は淡々とシャワーを浴びてロフトに上がる。

そのままだいたい眠る。

 

坂本はよろよろと後からシャワーを浴びているようだが

自分はもう眠ってしまっているので何をしているか知らない。

朝気が付くと大概その場でひっくり返ったまま寝ていることが多い。

それは床だったりソファだったり。

ロフトから眺めると本当に大の字でひっくり返っていておもしろい。

 

だいたいそういうパターンが多いのだが

今夜はぱっちりと夜中に目が覚めた。

クーラーの停止した部屋のロフトは蒸し暑くこのまま寝ていては熱中症になる。

とりあえず水分を取るべくロフトから降りてきたところ

部屋の網戸が開いていた。雨戸のレールに腰かけてベランダに足を投げ出した坂本が珍しくタバコを吸っていた。

 

「あ、起きたんかみられてもうたな」

 

バツが悪そうにタバコの火を揉み消す。箱に見覚えがある。

銘柄は坂田先生の吸っていたものと同じものだろう。

職員室のデスクからくすねて来たのか自分で買ったのか。

まぁそんなことはどうでもいい。

冷蔵庫にあった新しい天然水を勝手に開けて飲む。無味無臭の国産の天然水のはずなのに

苦く感じる。それでも喉を鳴らして3分の1ぐらい飲んだ。

そして冷凍庫からロックアイスを袋ごと取り出してスナック菓子のようにかじりながら

部屋に背を向ける坂本の背後に近付いてTシャツの首根っこをひっぱりその中にロックアイスを1つ放り込んだ。

 

 「ヒャッ!!!!」

 

魚のようにのけぞり飛び跳ねた。

あいかわらずリアクションが大きくて呆れる。

Tシャツをバタバタとさせゴロッという音と共にロックアイスが転がり落ちた。

何するんじゃぁと言いながら坂本はTシャツを脱いでそのまま投げつけてきた。

Tシャツは上手くかわしたつもりだったが坂本にひざ裏をタックルされて床に倒れた。

膝を派手にぶつけた。痛い。そのまま脱いだTシャツで両手首を頭上で縛られた。

いつの間にか馬乗りになった坂本は脇に転がったロックアイスを拾い

Tシャツの上からそれを使って体をなぞり始めた。途端に鳥肌が立つ。

体を滑る氷は上がった体温によってみるみる溶けて行く。

溶けて滴る水分はそのままTシャツに吸いこまれナメクジが這った後の様なシミをつくる。

 

なんともいえぬむず痒さがそのうち興奮に変わる。

 

 

「っん」

 

冷えた先端が右の胸の頂上から外側1センチの外周をグルグルと周り止まった。

 

 

「涼しそうじゃのぅ万斉君の熱でみるみる溶けよる

 

 

「先生の趣味は変態じみてるでござる」

 

「あははっはー今更だって変態やもん。楽しくってな…」

 

 

立ちあがった乳首を布越しに爪ではじかれる

 



っ」

 

 

「もっと…声…聞かせとーせ」

 

 

胸の上に氷を載せたまま腰を掴んで揺さぶられた。

振動で胸から氷がじわじわ滑り落ちた。それに気付いた坂本は丁寧に氷を拾い

鎖骨の中心の窪みに埋めた。

 

腰を揺さぶりながら溶けた氷の作ったTシャツのシミの部分を舐めている。

 

真性の変態だ。

 

しかしそれを眺めて興奮している自分もそう変わらないだろう。

同じ年頃の男子が昼間何のかげり無く運動でしごかれて夜は屍の様に眠っているであろう同じ時間に。

自分は…


 

快楽をやり過ごしながら顔を横に向けた時、先ほどのタバコの箱が

自分と同じように床に投げ出されていた。銀色の中包みから数本、タバコが飛び出している。

 

自分と同じように氷で濡れてダメになってしまえばいい。

タバコの箱をめがけて氷をぶつけたかった。

が、坂本のTシャツでしっかりと縛られた両手首はまったく言うことを聞かなかった。

 

 

ますますタバコの箱が憎たらしい

 

そう思う憎悪の念と快楽の波にのまれていつもより、より深くイった。

 

 

 「まぁわしも大概だが万斉君もなかなか」

 

 

ニヤニヤしながら手首のしばりを解く。

 

「若いのにのう

 

「先生の教えの賜ですよ」

 

背後でクククと喉で笑う気配がした。

 

 

 次の日、床に点々を水が垂れたような後が残り

ロックアイスをばら撒いたまま眠ったのだろう。

袋の中は固形物の跡形も無い。そのかわりその袋の下には水たまりが出来ている。

 水は行く当ても無くじりじりと流れて行き例のタバコもじわりと浸水していた。

 その様子を見て少し笑って水の始末もせずに、坂本の部屋を出た。

今日も暑くなりそうだ。




 

 

 

 

 

end

 

 

 

 

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夏の夜の3z坂万。坂本先生は変態だけど一応背徳感みたいなものは持ち合わせているはずなんですがどうもそれさえもおいしく味わっている感がありますね。

学生万斉はそれにうっすら気づきつつも同じ様に楽しみたいのとそうはいっても若さ故の割り切れない感みたいな冷静と情熱の間でもがけばいい。難しい事考えるの止める為に淫乱とかいいと思ってます。(2011,7,27)


 

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