期末テストの終わりは夏休みの始まり。
最終日の天気がいいと世の中がすべて自分の味方になったような気がする。
正確に言うと朝は雨が降っていたがテストの終わりを告げるチャイムの様に
雨も上がった。
夏服になり一カ月。
ここで一度テスト休みだ。月の中ごろに修了式はあるが
次の中間テストまで長く間が空くわけで嬉しいことこの上ない。
「いいかぁお前ら、テスト終わったからってハメ外すのもそこそこにしとけよー
おまえらなんか起こしたら俺ら先生たちがはめ外せないんだからなー!!」
「せんせー!ハメって何アルかぁ?はずすって最初はハメにはまってるんアルかー??」
「先生はハメられるよりハメる方が好きだー」
「ハメの意味変わってるよお前らァァァ!!どうでもいいんではやく解散にしてください」
「んじゃぁ解散!」
「解散!」の「ん」の発音は皆が一斉に立ち上がるガタガタガタ!という座席の音にかき消された。
廊下に生徒たちがあふれ出す。
我先にと外へ出ていく生徒と反対に帰りに支度さえ済ませず
ホームルームに出ていた人物が2,3人マイペースに準備を済ます。
「高杉先輩、今日はどうするんすか?」
「あぁ…今日はそうだなとりあえず帰る」
「なんだよ晋ちゃん、飯もくわねぇで帰るのかよ、今学期最後のコロッケパンなのにねぇ」
「そうすか…じゃぁ修了式まで学校来ないっすよねぇ…」
「また子すわぁん、私も近所の幼稚園児の面倒を…」
「うるさい!!黙れロリコン!!」
「またなにかおもしれぇことあったら自然に集まるだろうよ…体がなまらないうちにな」
「そうっすね!」
最後は明るく言葉を交わしたものの、また子はちょっとがっかりした。
いつものメンバーでゲームセンターにでも行ってぱーっと遊びたかった。
そういえば河上もいない。あいつもさっさと帰りやがったのか。薄情者め。
のろのろと4人で下駄箱に向かう頃には廊下にいた生徒はほとんどはけていた。
校庭の隅で野球部が集団で弁当を食べている。
テスト開けだというのにもう部活なのか。夏の大会目前だからか。ご苦労なことだ。
しかし…
予定がないということよりは部活があった方がマシじゃないか、
とまた子は思った。
せっかくテストが終わったのに自分には全く予定がなくなってしまったのだ。
こんなことなら志村や神楽の誘いに乗ればよかった。
今更メールする気分にもなれない。
校門で3人と別れてひとり街の方向へ歩き出した。
こうなったら一人で羽を伸ばそう。
そうだ、今ならセールでもやってるかもしれない。
そう思うとそういう時間の過ごし方もいいな、と開き直ってきた。
このまま坂を下っていけば…
にぎやかな街並みが近づいてくる。坂の底には平日でもやや多い人波が見えた。
日差しは強く蜃気楼にユラリとゆれる。
その時背後から風圧を感じ後頭部をパシリとかるーくはたかれた。
一瞬なのことかわからずはたかれた後頭部をとっさに手を抑えた。
振り返る必要はない。
追い越した風の行方を追うと
自分の数メーター先に自転車に乗った河上が停止していた。
ひらひらと無表情のままリストバンドをつけた手首を振る。
「あっー!」
「一人でどこへ行くのでござるか」
「あっ!あんた教室からすぐ消えたと思ったら!河上こそどこへ行く気っすか!」
「今日発売のCDがあって。学校から速攻で帰り自転車取ってきたでござる。」
なるほど、地域でも品ぞろえの多いCD屋にでも行くつもりなのだろう。
だとしたら自分の向かう方向と同じだ。
幸い目的地下り坂の先。
「ノーシャカシャカ、ノーライフのあのレコードやっすか?」
「いかにも。」
あ、ならば話が早い!
「乗るでござるか?」「後ろ乗っけてっす!」
声が揃った。
お互いの利害が一致したことにちょっと驚いた。
「また子、限定の特典なくなると嫌なのではやく」
「わかってるっすよ!あたしも急いでるっす」
そう言い終わるか終わらないかで自転車は坂道を緩やかに下り始めた。
小走りで追いかけその勢いをつけたまま、
後輪の中心部分の金具に足をかけ、河上の肩につかまり飛び乗る。
一瞬自転車はふらついたが、立ち乗り成功。
2人乗りで重くなった自転車は加速度を増し坂道を転がり始めた。
(あ、これさっきの物理のテストで出たな、なんだっけ重力加速度)
さわやかな風を切りながら思い出した。