After School

 



 



あんたなかなか強かったな。強い女はきらいじゃない」

 

 



盛大な喧嘩があっけない形で終わった。

砂ほこりの舞う校庭から夜兎高の生徒が去って行った。

 

 

 

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剃り込み頭になってもその見た目からは想像もつかぬ手際の良さで

擦り傷の手当てをしていく山崎がため息をつきながらいった。 

 

「来島さんも互角に向かっていくなんて驚きましたよ。ぼくがこんなこと言うのもあれなんですが、女の子なんで、顔だけは守ってくださいね。って顔は攻撃されなかったみたいですけど。」

 

「わかってるっすっいってぇ!うー滲みる」

 

「ちょっと我慢してください。手のひらだから化膿しちゃったら大変です。擦りキズはここだけですから、多分跡にも残らないでしょう。打ちみは痣にはなりますけど内出血で消えますから。膝の痣とか隠したかったもう少し長いスカート履いてください。似合うかもしれませんよ」

 

「お母さん気どりっすか?風紀委員みたいなこと言っちゃって」

 

 


だいぶ傾きかけた日差しが保健室に差し込む。

部屋が黄色い。

暑くて汗が出てくるのか傷の治療で冷や汗がでてくるのだかわからない。

 

気が付けば手当てをしている山崎は守り担当と言えどあの場に加わったはずなのに目立った傷がない。

そこそこ喧嘩慣れしてるのか。それともかわすのが上手くて逃げ回ったのか。

ピンセットでガーゼを器用につまんで消毒していく様子を眺めていたが

手の甲はやや赤くなっていた。グーに握った時に骨ばる部分である。

 

(へーこいつも攻撃したんっすか。意外。)

 

 

校庭では先ほどの喧騒が嘘の様に放課後の部活の準備が行われていた。

何事もなかったように。

 

 

するとコンコンというノックと同時に保健室のドアが開いた。

ノックの意味あるの?という速さでドアが開いた。

 

「あ」

 

山崎と声が揃った。

 

「手当ては終わったでござるか」

 

入口には額の右側にガーゼをあてがった河上が立っていた。

 

表向き目だっているのはその額のガーゼぐらいで

他には細かい擦りキズやミミズ腫れが半袖の腕に少しのぞく。

これは予測通りというか、それなりに体格も良い河上は喧嘩の時も良い動きをする。

ガーゼに少し血がに滲んでいたのできっと額の傷は金属で攻撃でもされたものだろう。

 それ以外で傷を負う可能性は河上には想像できない。

 

「消毒は手のひらだけなんでもう終わりますよ。あとはテープ貼って終わり」

 

「山崎、あとは拙者が変わろう」

 

「あ、そう。じゃぁあんたにお願いするよ」

 

山崎は遠慮する様子も見せずあっさり手当ての交代をした。

なんというかこのまま3人でこの部屋にいられるのもなんだかなと思っていたので

山崎のこの態度には正直助かった。

河上にじっと待たれているのも嫌だし、

高杉のことなど聞きたいこともあるけれど山崎がいるのもなんとなく

だから山崎の引き際の良さみたいなものはとても心地よかった。

 

簡単に最後の処置を河上に説明して山崎は手を洗って保健室を出ようとした。

 

「近藤、土方によろしく」

「えっいやいや何言っちゃってんの俺、ヤンキーだからね!剃り込みいれたのあんただろ!」

 

妙に慌てた口調で河上に強く出た山崎はばたばたと廊下へ消えていった。

 

保健室は再び二人になり、手当てを続けるために河上は向かい合っている丸椅子に腰かけた。消毒の済んでいる手を突き出す。

傷テープを貼りネットをかぶせて終わりだ。

 

河上は銀色の豆型トレイに盛られた血の染みた消毒用の脱脂綿にちらりと目をやると眉間のしわが少し深くなった。

なんとなく慌てて口を開いた。

 

「あっ、大丈夫っっすよ、これ攻撃された傷じゃなくて戻る時に勝手にすっころんで手ぇついて擦りキズ作っただけっすから」

 

「そうか」

 


広げた手のひらにもくもくと処置をする。

山崎の手を見た後だと河上の手はずいぶん大きく感じる。

その分あまり手際は良くないが、意外に丁寧にテープを貼っていくしぐさを見ていたらなんとなく恥ずかしくなってきた。

 

手当てだから当たり前だが手を握られるていうのがなんとも。

山崎の時は全然気にならなかったのに。

 

そんな気分もわずかな時間で終わり、校庭の運動部が声を張り上げ盛り上がるころには保健室を後にして下校の途についた。

 

手のひらの怪我というのは意外に面倒くさいな、というのを

下駄箱でローファーを履くときに思った。意外と不自由だ。

そして河上と並びとぼとぼと校庭の脇を歩く。

 

「万斉先輩は意外と派手な傷つくったんっすねぇ珍しい。大丈夫っすかぁ?本当は泣きたいくらい痛かったりして」

 

「よけた際にサッカーゴールの支柱に額をぶつけたでござる。額ぱっくり。

目の前が真っ赤になってのでトマト投げつけられたのかと思ったでござる」

 

「だっさ」

 

急に振り返っておでこをデコピンされそうになったところをうまくかわした。

 

「空振り!ぎゃはは!」

 

「まぁでも拙者のような傷がまた子にできなくてよかったでござるよ」

 

 

「イノシシ女子に拍が付いてしまうでござるからな」

 

 

ボスっ

 

とスクルールbagに遠心力をつけて河上を背中にぶつけた。

 



 

「ニゾウは?晋助様は?武市先輩は?」

 

「ニゾウは暴れたから腹が減ったといつものパン屋にいった。晋助は多分帰った。武市は知らん」


「そうっすか待たせちゃって悪かったっすね」

 

校門をでて歩きつつ、なんとなく落ち着いたので携帯電話を取りだした。

が、その時に気が付いた。

気に入っていたストラップが付け根のひもを残してブチリとちぎれていた。

 

「あぁあああああああ!!!!!」

 

「どうしたでござる?!」

 

「これぇえええ!!携帯のストラップが千切れてるっすぅうう!!!」

 

 

多分先ほどの一連の大騒ぎやらで何かの拍子に千切れたのだろう。

というか、ポケットに入れたまま喧嘩をしていたことを思い出して

それも自分でぞっとした。

 

しかし気にっていたのに

 

怪我やら何やらは治癒するが無くしたものはなかなか見つかりにくい。

ましてやストラップなどの小さいものは

よく道端で落ちているのを見かけはするが拾って届けよう、とまでは思わないはずだ。

自分が逆の立場だったらこんなに悔しいのか。

 

 

「また子、校庭で落としたならば運動部の連中が拾って届けてくれているかもしれんぞ明日落し物の届け出をするでござる」

 

 

今更緊張が解けたのと怪我をしたこと、ストラップをなくしたことが

一気に感情に押し寄せてきて、泣きそうである。

でもここで泣くわけにはいかない。

 

鼻がツンとしたがぐっと飲み込んだ。

 

戻って探す気力もない。

河上の言うとおり明日届け出るのが賢明だろう。

 

すっかり力をなくしてとぼとぼ歩いて視線を落としたその先にヌッと大きな影に遮られた。

はっとして顔を上げると既に並んで歩いていたはず河上が一歩前へ出ていた。

現れたのはつい先ほどまで校庭で乱闘をしていた夜兎高の生徒である。

高杉とやりやった三つ編みの小柄な男ではなく、

連れ戻しに来た教師に卒業が云々とか言われていた阿伏兎という生徒だった。

 

 

「おぉこれはいいところに遭遇した、お二人さん」

 

「また何の御用でござるか。先ほどの乱闘は一件落着なはず」

 

「そうカリカリするなよ、こちらだってまったく無傷ってわけじゃぁねえんだ」

 


そういうとポケットの中からなにかを取り出し差し出した。 


「さっき帰る時にお前らの高校の門出たところでこれを拾ったんだがそちらさんの高校の生徒の落しもんなんじゃなぁかな、と思ってな。

後日、とも思ったが届けたら校庭100周半分にしてくれるっていうからよ。お前達に渡すから悪いがそちらさんの生徒にきいてくれないか。」

 


「あーーーーーーーっ!!!!!!!」


ちょっと構えていた体制の二人がびくっとした。

 

「それ!!!!!!!あたしのっす!!!!!!」

 

 

「えっ!」

 

二人揃って声をあげた。

思わず駆け寄った。

 


「わぁああ!よかったっすよぉー!!あたしも今無いのに気が付いて!」

 

 

 「えっあぁお前さんのだったのかい」

 

「よかったっすっー!」

 

思わず両手をあげて飛びあがってしまった。

 

その様子に河上も阿伏兎もポカーンとしていたが

河上が先にプッと吹き出した。

 

阿伏兎の方もがりがりと後頭部を掻いて苦笑いをしている。

片方の口端をやや上げているがちょと切れたのか口角のに血がにじんでいた。


恐ろしいぐらい強い男だった。 

口元、それぐらいしか目立った傷は無い。だが痛そうなことにはかわりない。

 

はっと我に返って気まずくなる。相手はさっきまで喧嘩をしていた夜兎高の生徒だ。

偶然とはいえここで借りを作るのはちょっと気が引ける。

 

「あそうだ」

 

また子はスクールバッグの外ポケットをごそごそ漁った。

あった。7cmぐらいの板ガム状ぐらいの厚みの、端の折れ曲がったシートが一枚。

 

無言で相手に突き出す。

 

「?」

 

「バンドエイドっす。その口端にストラップのお礼っすよ

 

しかし差し出したバンドエイドをまじまじと見たら思いのほかカラフルだった。

本体には「痛いの痛いのとんでいけー!

とポップな書体でプリントされている。

 

「あ


やばっ


数秒だけ時間が停止したような気がした。

差し出した手をひっこめるわけにもいかず、どうしようと思っていたときに

すっとそのバンドエイドが受け取られた。

 

「ちょうどよかった。ありがたく頂いておくぜ。まぁこれ貼って帰ったらなんて言われるかわからんがな

 

 

そう言いつつでかい図体で小さなシートをぺりぺりとシートをめくり、ぺたりとおおよその位置にバンドエイドを貼った。

おもしろい顔になった。

口元に「痛いの痛いの飛んで行けー!」である。ヒゲまで生えてるのに。


無理やり押し付けておいて申し訳ないが笑いそうになった。いや、でも笑っちゃいけない!

 

河上はもうバンドエイドを差し出したあたりのやり取りからずっとあさってな方を向いて「知らない」というポーカーフェイスを貫いている。

いつもの状態といえばそうだが、少し肩が震えている。

 

(おいぃぃぃい!!河上笑うなぁあああ!我慢するっす!!!)

 

声に出せない大絶叫である。 



「まぁ、持ち主がみつかったし?怪我も手当てしてもらえたしよかったよかった」

 

棒読みだけどまんざらでも無い感じだ。

 

失礼するぜ、といってその場をゆらりゆらりと去って行った。

最初の角を曲がって阿伏兎の姿が見えなくなった時に

ほっとした。

 

そして背後から肩にぽん、と手をかけられる。

 

 

笑いをこらえられない、という風に腹を抱えてカタカタと震えながら河上が言った

 

 

 

「また子は本当に面白いでござるな

 






 

 


end











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また子vs阿伏兎読んでから書きたくて仕方なかったんですけどやはりベースが万またというか万またあってのっていう感じになりました。

いやぁーアニメでも触れてくれたし、欲を言えばまた子を出して欲しかったですが。(2011.5.24)




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