訪問者は少ない。絶好のサボリ場所だ。
放課後はさぼりと関係ないので堂々とその場にいる。
窓の外から打球の飛ぶ高い音がする。
(いい音っすね…)
一息ついて黒い点々が規則的に並ぶ天井を見上げる。
いつもだったら似蔵が寝ていたり、武市が本を読んでいたり
誰かしらつっかかる相手がいるのだが今日はいない。
なんとなく怠いからだを床に座り込んだまま持て余す。
そうしてぼーっとしていると遠く廊下の方で足音が聞こえる。
(あと10秒できたら万斉、あと15秒できたら晋助先輩…)
15、14、13、12、11、10、9、8、7、
ガラッ
(残り7秒のところできた!)
「あ、やっぱりいた。来島おまえ授業日本史の授業でろよー」
ちょっと目をしかめつつ確認したのは、
長い前髪に目を覆われてあご髭をたくわえた紺のスーツの教諭。
日本史の服部だった。
本当は足音の時点で高杉でも河上でもないことはなんとなく察知していた。
「坂田先生の言った通りだな、本当ここにいるとはね」
「服部先生。何の用すか」
ドアレールの上に立ち床に座っているこちらを見下ろす。
両手はポケットに突っ込んだままだ。
「何の用っておまえ、日本史の授業出て欲しいから直々に頼みに来たんだけど。今日は来島だけかぁここにいるの。一網打尽にしたかったんだけど。」
「おあいにく様っす。」
「毎日ここにいるの?逆に何してんのさこんな所で」
「いろいろっす…」
「いろいろ…ねぇ…なんかここいろんなもんがごちゃごちゃしてんな」
そう言いながらドアレールを超えて部屋に入って来た。
物珍しそうに放置されているものを眺めている。
あご髭をさすりながらふーん、とかいいつつ「あっ、これ社会科用の資料じゃん何でこんな所あんだよー」とかぶつぶつ言っている。
すぐに立ち去る気配はない。
これから小言が始まるのかと思ってうんざりしたがどうも服部の様子をみると
そう言う訳でもなさそうな気もする。視線だけで背広の背中の肩辺りが移動して行くのを追う。
身長は河上なんかより低そうだけどもやはり肩の辺りが大人というかおっさんというか
同級生の男子達とは違うなと思って眺めていた。
部屋を一周した服部が出て行くかと思いきや、
ドア付近に立てかけてあった三味線を見つけた。
(あ、河上が前もってきてたやつ…)
「おぉー渋い趣味の奴がいるもんだ。誰のだこれ」
「多分、河上のっす」
「へぇ…河上ってあのヘッドホンの。ギターだけじゃなく三味線もできんのか」
「まだ弾いてる所見た事ないっすけどね」
気がつくと勝手にケースから取り出している。
ふぅーんと言いながら弦の様子を見ている。
「あ、先生勝手にいじって壊しても知らないっすよ」
「大丈夫、大丈夫。先生こう見えてもさぁー結構ボンボンで習い事とかいろいろやってて三味線のたしなみもあんのよ」
「へぇ…!なんか弾いてくださいよ」
「いじったら怒られるんじゃないの?」
そう言いながら軽く構えてベベンっと軽くはじき
きゅきゅと音を整える。
「ハッ!」
と短く声をあげた後に昇り上げる様な三味線の音色が響いた。
なかなかテンポが早くかっこいい。
一瞬の演奏だったが服部がなかなかこなれているのが良くわかった。
「へぇ!意外っすねぇー!すご!」
「久しぶりに弾いたな…」
「先生、あたしも弾いてみたいっす!いつも河上にいじるなっていわれて触った事無いけど弾いてみたいっす、ちょっとかしてくださいっす」
「えっ?いじったら怒られるんじゃなかったっけ」
「ちゃんと扱いのできる人間がいるなら話は別っす!」
そういうとぱっと三味線を奪って見よう見まねで構えた。
「こんな感じっすか?」
「あぁまずは基礎から!はいそこに正座!背筋のばす!」
「えぇ?」
しぶしぶ床に正座する。
「で、右手をここ、肘の角度こんな感じで…」
いつの間にか背後に回っていた服部が腕をのばし
正しい位置に導く。
背後から指示が飛ぶ。
「弦しっかり押さえて、撥で弾く!」
べべん!
(わぁ…!鳴った)
「あ、交換条件ね、教えてやったんだから日本史の授業出る事。」
「教えてやったって…持ち方しか教えてもらってないんすけど…」
「まぁ…あとはその三味線の持ち主に教えてもらえばいいだろ。」
背後の気配が離れた。
離れ際に、見てないで入ればいいのに、とぼそっとつぶやく。
そのまま出入り口に向かってドアに手をかけようとしたと同時に
勝手にドアが開いた。
開いたドアの向こうには、河上が突っ立ていた。
「入りづらかった?」
「なんのことでござるか?」
「すんなり入ってくればいいだろう」
「よい雰囲気でござったので」
「やっぱり。悪かったよ気を使わせて。あ、河上も授業出ろよ!」
「…」
そう言うと服部は河上の肩にポンと手を載せ、
入り口に立ちはだかっている河上のよこをすり抜けた。
「あ、万斉先輩…あ、これはえっと服部先生が三味線弾けるっていうから…」
「…」
「服部先生も上手かったんすよ!…って上手い下手とかよくわかんないっすけど」
「なかなか様になってるでござるよ」
「マジっすか!」
「そうしてると猪女と言われている様にはとてもとても…」
ばしっ!
乾いた音と共に万斉のヘッドホンが吹っ飛んだ。
転がったヘッドホンからはシャカシャカと音が漏れていた。
end
--------------------------------
3Zに絶賛パーーーーーーー( ´∀`)ーーーーーーーーン!!!!したのは全蔵に三味線の嗜みがあることとまた子のポジションよ良さです!
(2011,04,22)
※ブラウザを閉じてお戻りください。