Vent de mai

 




大学生活にも慣れ、長い春休みも過ぎ

また街が浮かれ出す初夏の頃の休日前夜。


 

明日の天気予報の晴れマークを眺め

なんとなく高校の同級生だった河上メールをした。

 

To:河上

Subject;明日

 暇っすか天気いいみたいなんで

 

 

すぐに返信は帰ってこない。大概そうだ。

めったに携帯のチェックをしないのだろう。

 

数時間後の深夜に点滅する携帯。

 

From:河上

SubjectRe:明日

 すまない、明日はツーリングの予定

 

 

あっそう、気をつけて、と返信し

自分ばかり楽しい予定入れやがって

チ、と舌打ちしてそのまま携帯を握ったまま眠りについた。

翌朝枕元に放り投げられた携帯が再び点滅しているのに

眠い目をこすりながら確認する。

 

From河上

Subject:Re:Re:Re:明日

 ツーリングがキャンセルになった。まだ予定が空いていればどこへでもお供する。

8時には出かける予定だ。それまでに返信を。

 

 

メールに気が付いたのはAM7:45

飛び起きてメールを打ったが途中で面倒になり電話した。

化粧はさせてくれと頼んで8:15分に近所の公園前にバイクで来る、と言われた。

 

楽しみにしてたツーリングがキャンセルになったのか

ちょっとそんなことを思うと胸が痛んだが

あたしの誘いをおろそかにしたのがいけないんっすよと

開き直って待ち合わせに向かった。

相変わらず無表情でバイクに寄りかかってヘルメットを抱えていた。

こちらに気が付くと軽く片手をあげた。

バスケットボールのようにヘルメットをパスされる。

 

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河上は今、機械工学を学んでいる。

あっさりと現役で受かった工業大学に進学した。

しかし誰もが彼は音楽の方向へ進学すると思っていた。

 

一度受験に受からなかったぐらいでは…と思っていたが

バイクも好きだからエンジン関係にも興味がある、といったその選択に、

あっさり夢をあきらめて…と言う同級生もいたが

 

あきらめたというより方向転換だろう、と思った。

河上からはネガティブなイメージを抱かない自分の思い込みかもしれない。

第一本人が納得しているならいいじゃないか。

 

でも一度気になって尋ねたことがある。

 

「音楽は特別学ばなくても楽器を触り続ける限り続けることができるが

機械の専門知識はなかなかそうはいかない」

 

そう言った。

 

軌道修正、というより河上にとって機械工学も音楽も、幾重にも分かれた選択肢の中の同等な一つなのかもしれない。

その話を聞いたときにそう感じた。

 

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「何度も言うがここに足をかけないように注意して」


と二人乗りについて説明される。

 

「安全運転でお願いするっす」

「心配無い。メンテはきちんとしてきた」

 

そういってヘルメットをかぶって、先にまたがった河上の肩に掴まって

よっと大型のバイクにまたがる。

これが初めてではないが乗る瞬間はいつも緊張するのだ。

 

よく漫画であるような背中から相手の腰に腕を巻き付け

運転手の背中に体を密着させなくても

バイクは2人乗りできる。

あれはくっつきたいがための口実だろう。

恋人でもない相手の背中に

ファンデーションをべったり付けるのも気が引ける。

しっかりと座席下部分を握れば、

猛スピードを出さない限り体がもっていかれたりもしない。

 

 

バイクの二人乗りは無言だ。

車の助手席に座るのと違って

音楽もないし、風の音とヘルメットに耳を遮断され会話もままならない。

きょろきょろと頭を振るのも危ないし、

基本的にはじっと相手の背中を見つめるしかなく、

一緒に出かけているのだが自分自身との自問自答が始まる。

 

 

昨日はなにしてたんだろう。

このままどさくさにまぎれて河上の腰部分に腕巻き付けたらどれぐらい驚くだろうか。事故るかな。

このヘルメットも私以外誰かが被ってんのかな…。

ぱっと見綺麗だったけどもしかしたらもじゃもじゃの髪の毛ついてたかもしれない。

はぁこれが晋介様の背中だったらはっはっ恥ずかしいっす!

 

 

そんなことを考えながら海辺の工業地帯の高速道路を抜け

海を渡る大きな橋に差し掛かった時は

さすがに横風が怖かった。

手が汗ばむ。


ちょっと肩につかまったら少し、スピードが緩められた。

 


数十分走れば十分風景が違う。

高速を降りればのどかな風景が広がる。


 

海沿いの道を走りながら

中途半端な観光施設でバイクを降り適当に歩く。

フラワーラインとか渚ラインとか浮かれた名前の付いた

人っ子ひとりいない道路を快適なスピードで走る。

 

(あぁ、あれ聞きたいなぁ、なんだっけライダーのぼくらの自由をって曲)

 

五月の風は気持ちがいい。

日差しは強くちょと動けば汗ばむ陽気だが

バイクに乗れば風が気持ちいいし自分的には最高だ。

きっと河上だって彼なりに今日を楽しんでいるだろう。

 

(私と出掛けてよかったっすね!)

 

根拠のない自信が沸いてきてまた楽しくなる。

 

 

午後を過ぎ、来た道を折り返してきたが

日差しの角度が違うを違う風景に見える。

徐々に傾いていく日差し。それでもこの時期は6時を過ぎても

まだまだ明るい。

さほど急がず夕方に傾いていく風景を眺めながら帰路を進む。

 

海に突き出した岬の方向を告げる道路案内が見えた時、

河上はハンドルをそちらの方向へ切った。

陽が落ちるのが良く見える岬だと言ってエンジンを切った。

崖などはなく、低く続く砂浜が海の中央にむかって続いている。

 

(岬というより洲とか干潟だな…)

 

落ちている石を拾っては水きりをして遊んだ。

河上の石はよく飛ぶ。

水の上を石がポンポンと4度ほど跳ねる様子を

関心しながら眺めていた。

 

(ここも奴と来たのかな

自然と自問自答していた質問を口に出してしまった。

 

 

「今日は坂本先生とツーリングの予定だったんすか

 

 

今度の遠投は水きりに失敗してボチャンという音と共に石は波に沈んだ。

河上は手を軽く砂を払ってこちらに戻って隣に立った。

 

「そうだ。二日酔いがひどいとかで断られた」

 

「そっすか

 

「また子も晋助とは会ってないのか」

 

「たまーに会いにいくっすけどねうーん、避けられたりはしてないけど昔っから距離は縮まないっすよ

 


ヘラヘラと笑いながら軽くため息をついた。


 

「お互い不毛な恋愛っすよねぇ~

 

「まったくだ」

 

「報われない同士で慰めればいいなんじゃないっすかね」

 

「ハッ慰めるねぇまた子、抱きしめてさしあげようか」

 

「あんたの口からそんな言葉が軽々しく出てくるのも感慨深いッす

 

 

腕をぐいと引っ張られた。

 

 

「本気っすか?」

 

 

引っ張った力に対してはやや軽めの力で

ふっと抱き寄せられた。

河上の上着の肩章についているボタンが目の前に来る。

その肩章のループ越しに海の方を眺めた。

 

あー…、陽が落ちる。

 

(うーん

 

足もとが不安定で、ごそごそした。

つま先に何か当たる。段差があるのに気が付いてそこに上ると

河上の身長と同じぐらいになった。

 

(ああ、これは

 

ヘルメットでやや潰れながらも海風にあおられて

自然に立ちあがった髪の毛が目の前に来た。

そのまま頭を抱える。

 

「あぁ、河上がこうされたかったっすか

 

相手に聞こえているかわからないがつぶやいた。

海風がごうごう言っている。

 

 

頭を抱きしめたまま後頭部を二度ほどポンポンと叩いた。

くすっと笑った気がしたが

腰に回された腕にぐっと力がこもった。

 

 

 

 

(不毛っすねぇあー、富士山が見える……

 

 

 

 

 

 

end

 





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別の道を歩んだ河上とまた子の初夏の一日ランデブーです。

恋人でもない相手にスキンシップを求めるのも罪な話ですが

なにがどうきっかけになるかわからない二人ですからね。

そういう常識にとらわれない(と、勝手に思い込んでる)

万またの組み合わせが好きです。

 

また子は意外と純粋っぽいですが、対河上になると違うこと考えたりしそう。

高杉に対して盲目すぎて、他の異性には冷静になれているというか。

そこが隙になって河上に付け込まれてたら興奮しますね。(2011,3,3)

 




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