Soda hotel

 

 

 

 

 

夜中に目が覚めて飲んだ水が恐ろしく不味かった。

 

いつものピリピリした微炭酸の刺激は消え去り

癖のある香りだけが残った外国のミネラルウォータ。

なまぬるくて恐ろしく飲みにくい。

 

そうだ、好き好んで選んだ炭酸水の蓋をキツく閉めるのを怠り

枕元に置いて眠りこけてしまったのだ。

倒さなくてよかった。よれたシーツや寝具を見ていると

思いのほか寝返りを打ったようだ。投げ出した腕でペットボトルをなぎ倒してもおかしくない。

しかし倒れなかった、生き残った水がこんなにも不味いと

なにか仕返しをされた様な損な気分になる。

 

 

徐々に覚醒してくる深夜。

 

 

 

さて、なんでこんなに寝具が乱れているのか。

覚醒とともに上がってくる吐き気と頭痛に再びゆっくり横になる。

 

がさがさと寝具をかき集めて包まろうとした時、

素手で自分の肩に触れてハッと気がついた。

 

 

(拙者、服を、着ていない)

 

 

一気に血の気も引いて行く。寝ている間の体温の上昇が終わり

今はただただ寒いだけと思ったが、素っ裸で寝ていたことにさらに背筋が凍る。

 

 

(拙者の身に何が…)

 

 

この年になって身に覚えがないなんてみっともなさ過ぎる。

グラグラする頭で必死に回想する。

 

 

 

 

 

 

ヒタヒタヒタヒタ…

 

 

頭痛の酷い頭をフル回転させても初めに思い出すの映像ではなく耳に残った水の音。

 

誰かが楽しそうに水音を立てている。

買ったばかりの長靴で水たまりの突入する子供の様なリズムで。

 

しかし無邪気な水音でない…さらさらとした水の音とは違う

とろり、としたぬるい水の音が鼓膜の奥の方で流れている。

 

ジワァっと蘇ってくる感覚。冷えた筈の肌の表面がカァッと上昇して来た。

 

ぬるくてゆるい波に飲まれる。

 

 

右手がそっと体の中心へ伸びた。熱を逃がせば楽になれるか。

 

 

音声の記憶はどんどん溢れてくる。

ずっずっと水分をすする音が聞こえて来た。

くぐもった音だ。溢れてくる液体を口ですする、そんな仕草の音。

 

 

目を閉じても何も蘇らない、解放された耳だけが記憶をたどり続ける。

 

 

ハァ…ハァ…と呼吸があがってくる。

唇を塞がれ、強く吸われた感覚が段々とよみがえってきた。

とろりとした液体の波が舌の形になり咥内へ侵入してくるイメージに

思わずうっとりとした淵に引きずり込まれて手が動きが止まらない。

 

右手が…濡れてきた。

 

おかしい、音だけを思い出していたはずなのに実際に湿り気を帯びている。

 

ふと背後から手を伸ばされて右手に添えられた感しがした。

手だけでなく背中の肌に密着した体温の感覚。

背後から抱きしめられている様な

 

肩越しに背後を確認しても

もちろん己一人しかいない。

 

加速する手と快楽の瀬戸際で、ようやく声が聞こえて来た

 

(いやらしいのう…)

 

たった一言。

 

 

鼓膜に這う様に侵入して来たその声に。

蔑む様な言葉に。

 

 

 

記憶と共に上り詰めた頂上は

 

どうしようもない

 

 

後悔しか残らない深夜のアクメ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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DOESのサイ/ダーホ/テルの一節と

ロッ/カホ/リデーの「後悔するビジョン 深夜のアクメ」という歌詞よりイメージ。

思い出し笑いの様に思い出し自慰をする背徳感が好きな人斬り。

まさに自ら慰める行為。


状況としては缶詰状態の作業場ホテルに疲れ過ぎて寝れなくなる万斉→

平気で乗り込んでくる辰馬あたりに半ば無理矢理→爆睡

の流れが希望です。

あれ?最初そこを文章にするつもりだったのにな。(2010,12,23)