お互いの仕事の邪魔だ。
人斬りと言われているからには人を斬らなければならないし、
命を狙われているから護衛を頼むと言えば守らねばならないし。
利害が一致しないとはまさにこのこと。
全蔵が護衛を依頼された人物の屋敷で警護中の23時過ぎ。
屋敷の北に位置する台所からの人の気配に気づいた。
様子を見にきてみれば、黒に包まれた長身の侵入者が一人。
いとも簡単に侵入された。
言っても無駄かもしれないがいきなり攻撃というのもと思い
声をかける。
お互いとっくに気がついている。
冷蔵庫のモーター音がブーンと作動し始めた。
「取り合えず俺の契約今日までだから明日切りにきてくんない?」
「今日ははなからそのつもりはない、が、お主がそう申すと今日は始末してしまってもよいかな、と気が変わったでござる」
「嫌な性格してんなぁ…オニーサンよぉ…」
「それほどでも」
見覚えがある。
人斬り、河上万斉。
以前、その背中に三味線を担いでいた姿を見たことがある。
今日は三味線は持たず、その代わりに大層立派な日本刀を片手に持っていた。
刃渡りのかなり長いものだが、長身の男が持つとそれ程長いものに見えない。
こういう時は間合いに気をつけなければならない。うっかり相手の間合いに入ってしまうとバッサリとやられてしまう。
とにかく、護衛の契約は今夜24時までなんだ。
今夜さえ、お引き取り願えればそれでいいのだ。
こまかく言えば、あと数十分ちょっと待ってもらえればそれでいい。
自分でもひどいこといっていると思うが報酬を受け取っている間は従順だし忠実だ。
契約が終わってしまえばそれまでだ。後は知らない。
24時過ぎに報酬の入金が確認されたらさっさとお暇するつもりでもあったのだ。
面倒臭い騒ぎはなるべく起こしたくない。
おまけに日付を跨げば月曜日だ。コンビニの入荷したての綺麗なジャンプが買える。
全蔵にとっての至福のひと時はあと一歩のところまできている。
しかし目の前にいる河上はおとなしくいうことを聞く様な男ではない。
現に今日は下見のつもりだったが今日実行してしまおうか、なんてぬかしている。
やっかいな侵入者がやってきたものだ。
立会いをしても構わない、いや、なるべく騒ぎにはしたくない。
さてどうしたものか。
夜目が利き始め暗闇で相手の顔がゆっくりと確認できてきた。
顔といってもサングラスで覆われたその顔面は口元がうっすら笑ったのを確認しただけだった。
その口元を見た時に全蔵の中で何かにカチッと火花が散った。
対峙したままゆっくりとにじり寄る。
首の後ろに忍ばせていた小瓶を取り出し
「本当さぁこういうことにこういう技とか道具とか使いたくねぇのよ」
瓶の蓋をあけてサッと蒔いた。顆粒が飛び散り空気中に一瞬にして溶けた。
その動作に反応して抜刀しようとした河上の動きが急ブレーキを掛けた様にぐっと止まった。
「…?………!!!…っこの匂い…」
「なかなか匂いに気づかないうちに痺れてくるもんなんだけど、へぇ…さすが鼻が利くんだな。脇さん特製の呪縛旋花パウダーだと。」
相手の動きが鈍くなった一瞬の隙に飛び上がり背後に回る。
そのまま刀を持つ河上の手首を掴んで調理台の上にうつ伏せになるように押し付けた。
抜刀させなかっただけ優秀だ。汚い手段だがこれが忍びの戦い方でもある。
「っ……ぐっ…」
「23時半かぁ…あと30分だな…別に俺ぁあんたに恨みもねぇから殺すつもりもない。
ただね、今、アレだから、お仕事中だからね、侵入者排除するのが仕事になっちゃってるからね。」
「情けをかけているつもりでござるか。一捻りに殺せ」
「まぁ…今のあんたの状況確かにまな板の上のなんとかだけどさ…俺このあと用事あるし血まみれとか嫌なんだよね。
それよりさぁ…なんかニーちゃん生意気だからムラムラしてきちゃったよ…どうしてくれんのこれ」
うつ伏せにさせたままぐっと腰を押し付けた。
先ほど蒔いた粉は自分には慣れているが多少の興奮作用はあるらしい。
動けない相手を押さえつけているという状況に少なからず嗜虐心が煽られる。
30分の暇つぶしと思えば…
「前も思ったんだけど、何聞いてんの?これ」
ヘッドホンのバンドをつかみ後ろに引っぺがして床に投げ捨てる。現れた形の良い耳はヘッドホンで少し潰れている。
その耳になぜか執着したくなる。体を伸ばし背後から耳の裏手を舐めてみた。
面白いことに体がピクリと反応した。
へぇ…
小さな嗜虐心が少しづつ膨れ上がる。
「あんたさ、あの坂本って男にもこんなことされてんの?この前もただならぬ雰囲気だったよなぁ…
まぁ、あんたが大人しく組みふされてる訳でもなさそうだけど、でもなんかそういう煽る色気みたいなのはあるね。
いいな、これが若いっていうことなのかねぇ。」
なるべく耳元で低い声を出し囁いた。耳朶を舐めるか舐めないかぐらいの至近距離で。
ゆっくりそっと深く吐き出す息を当てながら。
「お主には…関係ない」
「状況、わかってる?」
片手でクナイを取り出し、うなじにあててすーっとなぞってみた。
肌に金属が反応してここでも小さく震えたのがわかった。
思ったより自分自身も興奮している。
ふと腕の時計を覗くと24時を回っていた。と同時に携帯が鳴る。クナイを投げ捨て携帯を確認すると「任務満了、振込済み」の文字が。
押さえつけている理由もなくなったのであっさりと腕を離す。
「あー、俺の仕事終わったからもうどうしてもいいよ。今から切りに行くのもいいし、それともこのままこれの続きするかい」
「仕事をさせて頂く」
「お好きにどーぞ。今日は止めといた方がいいと思うけどね下見は下見らしくしたらいい」
というと同時に後ろ足が蹴りあがった。
一瞬の判断で後ろに仰け反りクリーンヒットを避けた。
が靴のかかとがあご髭を擦った。
きっとあの痺れ薬の作用がなかったらまともにくらっていただろう。
「ちなみにこのまま仕事続けるんだったらそこの冷蔵庫の中にある納豆の匂い嗅ぐといいよ。一発で薬が切れるから」
そう言うと全蔵はしっかりと覆面を被り闇に溶け出した。
(あ~早くジャンプ読みてぇな…あ、そうだ!薬で痺れても痛覚やらは分かるんだな。脇に報告しとこ)
獲物を追うより早く黒い影が夜を駆けて行く。
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なんか耳攻めばかり書いてる気がしますすみません万斉の弱みな気がしてならない。思い込みですが。
でもやっぱりヘッドホンは興味わくと思うのですよね。ちょっかいだすならそこかな、と。
全蔵は…普段常識人というかつっこみ役ですがどっかがスイッチ入ったら変態まっしぐらだといいなぁなんて勝手なことを思ってる。
それは受けでも攻めでも。
相手をねじ伏せるためだったら平気で忍法使えばいい。(2010,11,25)
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