Day Dream

 

 

ようやく体の節々に力が宿る時間になったが

抜かれたせいでまったく力が入らない。

 

 

ずっ…ずずぅっ…ジュルッ

 

水分をすする音が響く薄暗い部屋で。

 

 

 

後ろ手に縛られてベッドの端に腰掛けている男が一人。

首には直径8mm程度の赤い斑点が4.5cmの間を空けて平行に2つ並ぶ。

黒いロングコートを着てはいるが足下に脱げきれていないズボンが皺を作る。

 

腰掛けた男のむき出しの両膝を、大きな手のひらが脚が閉じぬ様に押さえている。

その脚の間に体を納め床に座り込んでいる、くせ毛の男が一人。

 

左太ももの付け根手前7cmの位置に歯を立て

皮膚に穴を開け血を抜いていく。

吸いながら、時に肌に流れた血液を舌で嬲ると

ピクリと小さく肌が震える

 

それが楽しくてゆっくりと、すする。音を立てながら。

 

すぐ間近に質量を増す熱を感じながら。

 

 

 

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「こーんにちは まんさい君。まぁなんと隙だらけの…隠れ家」

 

「何度も言う ば ん さ い だ。今何時だと思っている」

 

「あっははははー 15時かえ?」

 

隠れているつもりなどない。この男はいつだってふらりとやってきて

どこからだって侵入してくる。サングラスをずり下げ、ヘラヘラした笑みを浮かべて。

 

「夜這いをするなら夜にしてくれぬか、

お相手するのに少しはマシに動ける、お主を蹴散らす動きが」

 

といくら言っても聞かない。

そして結局夜だけでなくこうして昼間やって来て寝床を荒らしにくるからタチが悪い

 

「万斉君が寝ているなら昼だって立派な夜這いじゃき」

 

無邪気に笑う様子に何度刃物が空を切ったか。

 

遮光布に包まれた夜のような部屋に、風に吹かれてできた布の切れ間から強い西日が一筋。

それを背に当てた坂本は後光の射すキリスト像のようだ。

忌々しい。

とっさに枕元のサングラスに手をのばし目を守る。

 

風が止み、布の切れ間が塞がり再び夜のような部屋に戻った時には

既に万斉の上に坂本が覆い被さっていた

 

「すっかり喉が渇いてしまってな、駆けつけ一杯、な、たのむ」

 

「そこの保冷庫の中に今日届いたばかりの全血製剤があるので 喉が渇いたならそちらを。

先日、坂本殿の所にも同じ品をお送りしたはず。そちらはどうなされた。もう平らげてしまいましたか。」

 

ゆっくりと体を起こし腹の上にいる人物をどかそうと体をひねる。

しかしこの時間は力が入らない。

 

「あ、あれはのぅ、宛先違いかと思うて送り返してもうたわ。だからこうして…ここにおるんじゃろ…」

 

「人の好意を無下にして…」

 

わざわざ現れるとは…と悪態でもつこうとしたが

手首を掴まれ押し戻される。

ぐぐと、体重がかけられ暗闇の中から生暖かい空気がだんだんと首に近づいてくる気配がする。

 

「そんな好意ならこんな行為で返したもんせ」

 

ガブッ

 

…っゥッ

 

首元に歯を立てられぷつりと皮膚が破られた。ツツーっと液体が流れるのが分かる。

まぎれもなく自分の血液だ。

ジュルルルという音を立ててちくりとする首元から血液が吸われる。

 

輸血用の血液を食している自分の血液を飲んだって同じ事じゃないのか。

不毛だ。

そんな事をぼんやり考えていたが首筋を流れた血液まで舌で舐め上げられていくと

背筋がぞわりとする。

 

…ハァ…ハァ…

 

呼吸が荒くなり、徐々に貧血のような症状になっていくが

その朦朧とした感覚が なぜか 残る

認めたくはないが、わずかな快楽を見出している自分がいる。

 

くせ毛頭が首にすがりついたまま、為す術もない。

 

額に手を置かれ、ぐっと枕に後頭部を押し付けられながら

首元にめり込んだ犬歯をズッと抜き、

 

「わしに他人の血液なぞ飲んで欲しくないクセに」

 

口元をぬぐいながら笑う。

 

「ップッハァ!やはり首から飲むのは格別じゃの。おんしの耳がよく見える。

まぁおんしが「こ ん な こ と」を夜な夜な人間にしてたらわしゃぁおんしを殺したくなる」

 

「拙者は人間どもに牙を剥く趣味は無い故」

 

「本当かぇ?嘘だったら…狂うぜよ」

 

「もう狂っているでござろう」

 

「あっはははははー!その通り。しかしなぁ固い皮膚に歯を立てるってのも楽じゃないぜよ。

太い動脈があるといってもおんしの首は筋肉の固まりだからの。

…一杯といいつつ飲み始めたら止まらん。柔らかい飲み口はないがか?」

 

指を一本たてて皮膚の上をなぞる。

 

「次はどこにしようかえ?」

 

のど元の鎖骨のくぼみをぐっと押され、激しく嘔吐く。

 

 

体はだるいままなのに夕方に気配に意識は徐々に覚醒していく。

忌々しいこの男を払いのけたいのに 腕に力が入らない。

 

「そうじゃ、先日読んだ医学書にのぅ…」

 

カチャカチャとベルトをはずす音がする。ぼぅっとする意識のなか下腹部がひやりとした。

空気が触れる。

咄嗟に起き上がりベルトに掛けられたてを払いのけようとしたが

逆に掴まれ頭上で両腕をまとめられてしまった。

そのまま枕元にあるヘッドホンのコードでぐるぐると手首を縛られる。

 

 

「脚へ伸びる大動脈があるとあってな、確かこの辺りに…」

 

ベットの端に腰掛けさせられ、

目の前に立つ男を座った位置から睨み上げた。

男の視線は徐々に下がっていき、腰掛けた自分の目線よりも

下へ降りていく。

腿に器用に手を這わせながら。

 

 

早く夜に。

 

この体が無数の穴だらけになる前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

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トリックオアトリート!血いくれないといたずらするぞ!ってか血すうってもいたずらしますが!!

 

 

 

 

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