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服部は一般人に紛れて犯罪者側と接触し、それを警察にも流すいわゆるタレコミ屋を営んでいたのだ。
鍵師としての前科もどうやらあるらしい。 マスターだましやがったな。
今回は入手した情報のビデオやカセットテープ等、コピーするのもがアナログだったので随分手間取ったらしい。
テープはダビングするのにも時間がかかるし、写真は現像できない。
「パソコン上のデジタルデーターだったらコピーなんてあっという間だろ?
右クリックしてコピー選んでUSBにぶち込んでハイ、おしまい!だ」
あの日、から犯人側からの接触はないという。身の安全のためとりあえず店はたたんだ。
と、いってもきっと場所を変え手を変え同じことをするのだろう。
服部自身もなぜかトラブルに巻き込まれるのはまんざらでもないらしい。
こちらは完全にとばっちりだ。引っ掻き傷まで作られて。
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あのくわえ煙草の刑事の名は土方といい、情報屋として服部と接触していた。
が、服部の小出しなタレコミがうさん臭く気に入らなかった。
はじめっから第三者の存在、要はわしの存在を探っていたらしい。
まず廃墟不法侵入でしょっぴく。
そのため16日目の早朝、服部の店に行った辺りから尾行されていた。
服部がそれに気づき、わしに逃げろと指示している途中で既にに土方はこの場所を突き止めていたわけだ。
土方も土方で公安どものマークを上手くかいくぐりタレコミ屋を利用しつつも、
服部を牽制しておきたかったのだろう。まぁ立場が変わればもっともな話だ。
…?
まてよ…それではあのメールは?
「15日目のフィルムが異常に少ない。何があった」
自分の携帯は壊してしまったので
服部の携帯から連絡に使用していたメールアドレスにメールを送ってみたが
送信直後数秒後に届く
「Your message was not delivered because the destination computer was not found.」
というメール。
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16日目
●15:13
消火活動の済んだあの家に鑑識の人間が到着していた。
そんな様子を眺めつつ土方に尋ねた。
「しかし、おんしはなんであの家にお巡りサンを送り込んだんじゃ…?あの家に居た人物は何者なんじゃ?」
「あぁ?そりゃおまえあれだよ、ここ2週間で政治家だの経営者だのが相次いで射殺されてただろう。
実行犯が潜んでいるというタレコミを服部から受けてな。
しっかしあのヤローもったいぶってなかなか核心をついた情報流してこねぇからヤキモキしてたんだ。
勝手に実行犯とは別の組織が裏にいるからちょっと待て、って言ってな、情報全部差し出さねぇ。
アレ、マスコミにもタレコミしてんじゃねぇだろうな…?
で、お前らマークさせてもらった。
こちらはとりあえず実行犯捕まえなきゃならねぇ。単細胞と言われようが。連続射殺事件だからな。
裏を調べるのはその後だ。
まぁ今日最後にライフル構えた姿見たから証拠としては十分だろ、このビデオにも記録されてんだろ。
服部の野郎、映像まで撮っていること報告しねぇなんだから…あーぁ、しっかし容疑者死亡かよ…調べの甲斐がねぇな…」
と、言いながらポンとビデオカメラに手を載せた。
「さぁ、サカモトさんとかおっしゃる方、重要参考人ですからね、現場にいきましょーねー」
と言った笑顔が…凶悪だった。
咥えていたタバコを床に捨て踵でぐりぐりと踏みつぶした。
ここに薬品が撒かれていたら…先ほど目の前で見た光景のようにゴォォっと炎が上がっただろうか 。
容疑者死亡なんて容易く口に出されたが、もう本当に決まった事実なのだろうか
●16:27
いつもだったら三味線を弾いていただろう。
だが今は熱でひしゃげた窓枠にくすぶる煙。
いつか向こう側へ行きたい、川を渡りたいというかすかな希望はいとも簡単にかなえられてしまった。
無残な形で。
「うわー派手に燃えたなコレ火炎瓶だけじゃねぇなぁ」
手袋片手にはめながら楽しそうな声を出しているのは鑑識官。
帽子から銀髪のはみだしている男だ。
カメラ片手にばしばし現場写真を撮る。
はて?あの髪、どこかで見たことがある。
という顔を目があった時向こうもしていた。
「あれ?お前坂本じゃねぇの!?どしたの?ついに捕まるようなことしたの?」
「あぁっ!!きんときぃ!おんし金時じゃぁなかか!!!」
「き、じゃねーよ、ぎ!だよ!ぎ!」
「あぁ?お前らなんで知り合い?」
険悪な雰囲気で土方に詰め寄られる
「げ、あらぁ~土方刑事いらしてたの?お疲れさまなこって。
いや、こいつ坂本っつって大学時代同じ写真部だった。
しっかし久しぶりといっても現場(こんなところ)で再会とはねぇ…」
「あっはははっは…重要参考人になってしまったんじゃ…。
…さっきおんし火炎瓶だけじゃないっていちょったけど、
火つける間際、窓辺にペットボトルでなんか撒いちょった…」
「あぁ…ガソリンかなんかかね…恐らく部屋中に撒いただろうな、
でも確かにか窓際の燃え方が一番ひどいな、地面まで焼けてる。 なんか違う薬品かねぇ。
最後に火炎瓶投げた人物がここらへんということは…遺体探すならこの辺だろ。
念のため聞いておくけど、遺体がお知り合いの方、という可能性は?」
間取り図に丸をつけながら独り言のようにつぶやく
「んにゃあ、違う。知り合いじゃなか」
「あっそう」
遺体。
目にすることはできるのだろうか。それを見ないと自分が、納得できない。
しかし…遺体は発見されなかった。一部相当な高温で燃えた場所があったらしく、
万が一その位置にいたとしても、わずかな骨ぐらいは出てくるらしい。
逃げられたのか?あの炎の中を?
次の日の朝刊には「連続射殺事件容疑者、死亡」と公表された。
それから3日後
19日目
●15:42
最後の盗聴器のテープは提出せずに現場から勝手に持ち帰っていた。
リサイクルショップで中古のポータブルカセットプレイヤーを入手し
しかしヘッドフォンはあの男が使っていた物のような
立派な分厚いものを購入して、カセットを再生した。
「いずれ、また」
という声が入っていた。
このテープが誰かに渡ることを知っているのか。
自分に宛てたものでなくてもいい… ただ、何度も繰り返し聞いた。
簡単に忘れることはできない。
『不安定なつり橋の上ですれ違った男女は恋に落ちやすい。
なぜなら不安定なつり橋の上でゆられて心拍数が上がったのを
相手対して心拍数が上がった、ドキドキしたと感情が勘違いするから』
という説がある、と昔見たサイコサスペンスドラマで聞いたことがある。
凶悪犯に誘拐されたはずの少女が犯人に恋をしてしまうという話だった。
『だから、本当の感情ではない、目を覚ましなさい』
冷徹な女刑事がこの説を持ち出して少女を一喝するラストシーンを、
なぜか思い出した。
非常に一方的な感情だ。
単なる好奇心以外の何者でもないだろう。
そんなことはわかっている。
ただ、今は
「いずれ、また」
を繰り返し聞き、
手元に残ったモノクロの美しい背筋を拝んで
自らを慰めるのだ。
…end
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あとがきと言う名の補足:操/上/和美監督ゼラ/チン/シルバ/ーラブのオマージュです^^設定を当てはめた感じでの話なので、
お気に召してくださったらぜひ映画のDVDも見てみてください。映像の美しい映画ですよ。写真家が撮った映画、その通りです。
10日目に坂本がモノクロで写真を撮ったのは自分で現像をする為です。
モノクロは自分で現像しやすいのです。カラーはちょっと難しい。なので。
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