闇夜に濡れる 霧の中
新月の夜道をトボトボと歩く。
なんか…すげー疲れた。眠い。気持ち悪い。腹痛い。
とりあえず体が重い。早く自宅に帰りひっくり返りたい。
どーーーん
と腰の当たりに衝撃が走った。
重さごと吹っ飛ばされる。横倒しに倒れた。
ずっしゃぁぁーーーザリザリザリ
…俺、自宅でひっくり返りたいとは言ったけど道ばたでひっくり返りたいとは一度も願ってない。
チカチカと光が見える。懐中電灯か。
「あー!全蔵さんじゃないですか!」
「あーイボ痔忍者!?なにしてるネ?」
ぼんやり見えるのは眼鏡の少年と元気そうな少女。
口まで隠していた首巻きを指で下ろして口を覗かせる。
重い腰あたりにしがみつかれてるのは…銀髪の…
「いってててて…何してる!っておまえら…お前らこそ何してるお子様は寝る時間だろ…」
「いやね、この辺に痴漢が出るって聞いて、町内会の落さんに痴漢捕まえてくれって依頼受けてて…」
「で、見るからに怪しいヤツ来たから銀ちゃんに飛びかからせたネ!」
「目撃情報によると全身黒ずくめの男っていうからどこのコナン?とか思ったら…まーさかお前だったとはねぇ…」
「ちょっと待て、なんで俺もう犯人ってことになってんだ…?」
銀髪が腰に巻き付けていた腕を離し、起き上がった。
「あれ?おまえビビって漏らした?この辺が濡れて…」
と言いながら手のひらを広げて腰と交互に眺めている。
そして薄暗がりでも分かる。ちょっとした眉毛の動き。
「おい、おまえ痔が爆発してんぞ」
「ちげぇえええよぉぉぉ!」
「…じゃ、何?」
「………いや、ちょっと水たまりの上に尻もち付いちゃって」
一瞬、銀髪の目が細くなる。
「おいお前らはもううちに帰れ。犯人捕まえたも同然だから」
と新八と神楽を帰させる。
「奨励金GETネ!」
「ちょ、チャイナ娘聞き捨てならねぇこといってますけど、違うから。痴漢とかそういう趣味ないから」
「じゃ、銀さん届け出おねがいしますね~」
「ちょ、ちがうからぁぁぁああああ!」
そのままずるずると路地に連れ込まれた。
銀髪は掌に付着した血を壁にこすりつけながら懐中電灯をいじっている。
短い言葉が投げられる。
「大人のお仕事?」
「Yes、大人のお仕事。」
「生ぐせぇなぁ」
「あれだから、今日あれの日だから。」
「女の子?」
だんだん脂汗が出てきた。
今日は忍び相手の仕事の日だった。
汚い手法の合戦だ。
飛び道具もあり、毒もあり、火薬もあり
「返り血盛大に浴びてな。早く帰りてぇんだ。てめぇらの仕事手伝ってる暇はねぇよ。勘弁しろ」
「いつになく余裕ないじゃんよ」
「そー…でも…ねーぜ…」
いじっていた懐中電灯をぱっと付ける。
足下見えないと危ないからねーとか言いながら足下から顔面へ上がってくる光。
眩しい。
夜目から光になれるのが面倒
と思う時点で根っからの猫だ。
「俺は見えている。光なんて必要ねぇ」
「俺が見たいんだよ…」
光を当てたら…地面にぽつぽつと黒い斑点が散らばっている。
懐中電灯をさらに近づけられる。斑点の出所は…俺だ
「眩しいよせ、消せよ」
「イヤン電気消してってか?」ニヤニヤ
「おまえねぇ…本当ふざけんのも大概にしろよ」
「ふざけてんのはどっちかなっ…よっ…と」
というなり脚を掛けてどさっと倒された。
馬乗りになり忍び装束の上から上半身をまさぐる
「ちょぉおなにすのぉおおお前ぇぇ!」
「おまぁえさぁ、これ返り血だけじゃないんじゃない?」
…
まさぐる手は止まらずついに着物が不自然に破けた脇腹の穴に手がひっかかった。
あたりだった。脇腹を、クナイが掠めた
掠めただけだったら…こんなに辛くはない
まぁおそらくクナイに毒を塗られていたんだろう。常套手段だ。
よくあることだ。
早く帰って自分で止血、毒抜きしたかった。
と思ったらこいつらにつかまった。
しっかし良く回る毒だ。屋敷まで持ったかどうか。なんつーか貧血。
いつもなら馬乗りの男をなぎ払うことなんて簡単なはずだが腹に力が入らない。
緊張していた状態がこいつらに遭遇してどっと疲れが増した
それのせいで回り始めたような気もする。
あーもう面倒くせぇ!
「まぁアレですよ困った時はお互いさまっっつーことで
ここはひとつ銀さんに任せなさないよ!」
破けた布から皮膚がのぞく
確かにそんなに大きな傷ではないが
傷の大きさに似合わず血がどくどく流れている。
(血が止まってない?)
流れた血が布を濡らし肌に張り付いていた。
懐中電灯を口で咥え
両手で破けた部分の穴ををさらに破いて広げ患部を大きく出す。
懐中電灯に照らされた肌は…傷のまわりが青黒くまだらに変色していた。
「うっわ、おまえっ気持ち悪っ…肌が毒キノコみたいな色になってんぞ!」
「あー…やっぱり」
「お前『やっぱりね…』ってこんな状態、放置とかマゾですかぁ?放置プレイですかコノヤロー!」
「すぐ帰って処置するつもりがてめぇらに邪魔されたんだろうがよぉぉ!…っっつ…」
ヒソヒソ声のまま大声をだした途端くらっとした。こりゃ結構な貧血だぞ
頭イッテェ…
「ほーらほら無理しなさんな。まわっちゃうよ~毒、回っちゃうよ~全身毒キノコ色になっちゃうよ~」
独り言のように唱えながら再び懐中電灯を咥えて照らしながら、
穴から素肌をまさぐっていく。
懐中電灯を加えたままの口端からつつーっと…
(おい、涎たれてんぞ…)
と思った不意に脇腹に激痛が走った。
(いってぇぇっぇええええええ!)
指で傷を抑えつけられる。膿を出し切るようなしぐさ
大声は出せない。自分で口を押さえた。
汗がどっと吹き出てて全身が痺れる。
一旦押さえつけ終わったと思ったら…指とは違うやわらかいものを患部に当てられる
そのまま吸いつかれた。傷口を口で吸われた。
「っぅつうあああああ!」
これも相当痛い…気絶しそうな痛みの中
自分で腕を噛んで舌を噛まないように耐えた。
途中暴れて何度かこいつを蹴った
残念だが毒抜きには一番有効な手段ということは分かっている。
力いっぱい脇腹の傷口を吸った後、むくりと起き上り
ペッと口の中のものを吐きだし口をぬぐう
さっきまでのふざけた表情はどこへやら
そのしぐさに鳥肌が立った。
「ハァッ…ハァ…悪ぃ蹴っちった…」
肩で息をする。
銀髪頭は再び傷口付近に顔を埋めた。離れようとしない。
そして傷口に沿って…舌が這う。
先ほどの痛みほどではないが鈍く痛む。
と同時に腰から下にふわっと沸き上がるドロドロとした疼き。
痛すぎて感覚おかしくなりやがった…
ぐっと髪の毛を引っ掴んだ。
丹念に丹念に傷口を嬲る銀髪が不意にぱっと顔をあげた。
「消毒ね。ちなみに俺抵抗されると燃えるタイプ。嫌だって言われるとねぇ
ドS心に火がつくわぁ」
そういった銀髪の前髪から覗いた瞳は…
恐ろしい色をしていた。
っちきしょう…痔よりいてぇよ…
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誕生日なのに災難でごめんなさい!これも愛!2010年8月22日!
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