~Chain~
密告者の指定の場所は、ある宿場町外れの旅館。
流しの三味線弾きとして長屋の2階の一室に通された。
隻眼の男を初めて目にした。
煙管を銜え窓際に座り ゆっくりと外見ている。
正確には…限りなく満月に近い欠けた月を眺めているようだ。
天井が低く 薄暗い
数曲披露した後、
拙者には分が悪い、と感じつつ仕込み刀に手をかけてしまった。
分が悪ければ引くという道もある。
いつも気がはやる事なぞないのに。自分のリズムではないまま、事を進めてしまった代償は…
隻眼の男の優雅な佇まいとは裏腹な刀さばきはもの凄い早さと重さだった。
不利な体勢になった所に隣室から浪士達がなだれ込み、押さえつけられた。
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荒縄で両足と両手を後ろ手に縛られ、
水を掛けては殴る、蹴るの暴行が繰り返えされた。
誰の差し金か必要に問われ繰り返される暴行。
(幕府の者と決めつけない所を見ると他にも狙われる理由があるのか…)
ちょっとぼんやりしてきた意識の隅で考える。
あばら骨は何本か逝っただろう、呼吸がややヒリヒリとしてきた。
しかし後ろ手に縛られた手はぐっと握り、指の骨折は回避せねばならない。
指が使い物にならなくなるのは、一番の危機だ。
(拷問の訓練を舐めるな。
これくらいで拙者が口を割ると思うなよ)
後はタイミングを見計らって落ちたフリをするのだ。
相手も体力は相当いる。いつかは疲れる。その頃合いを見計らって
とうとう気を失えば、その日の拷問はそこで終了だ。
そもそも単なる一浪士の暴行にすぎない。
拷問の専門人物がしている訳ではないのだ。隙を狙って抜け出せるだろう。
幸い、一番手強いと思われたあの隻眼も男もいない。
あの男には底知れない得体の知れなさを感じた。
自分の身長に合わない天井の高さ、あの男の洞察力
「そんなもん使わず日本刀を使え」
と指図された動揺。
すべての不運が重なっただけとは思えない今回の任務の失敗
生きて帰ったとしても人斬りとしてはお払い箱かもしれん。
(その時は…三味線の師範でもするでござるかな…その為にも指は死守せねば…)
半殺しにされているのに今後の身の振り方を考える己がおかしくなり
声に出して笑った。
その様子に逆上した浪士たちの暴行はさらにひどくなった。
そして落ちた…フリをして暴行は一旦済んだ。
夜半過ぎ。周囲に音は無い。人里から離れた場所だろうか。
用心深く、大声を出さぬよう、舌を噛み切って自害せぬようにと猿轡をされ放置された。
小屋の外に恐らく見張りが一人。
カタリと音がして小屋の戸が開いた。腰の低い黒影が侵入してくる。
おそらく見張りをしていた男…だ…
黒影の目がギラリと光った。
「13番…」
暗闇から音を拾った。
13番。 もはや名前で呼ばれることもなく数字と化した自分のことだ。
おそらく幕府の忍びの者だろう、任務遂行を見届けたり足抜けを追ったりする末端の者だ。
なるほど、こいつが浪士達の間者になり幕府に情報を流していたのか
(しくじりおって。足は折れてはおらぬか)
ゆっくりうなずく。その様子を見て、黒影は懐から水筒を取り出し置いた。
(後ろ向け、腕から解く。猿轡は自分で外せ。水で口をゆすげ。その間に足を解く)
体を転がし、黒影に背を向ける。打ち身で体中痛い自分にとって体力の必要な行動だった。
縄に手がかかったな、と思った瞬間、手のひらに生暖かくぬるりとした液体が伝った。
ん…?と思い背後を首だけ向けて確認すると、黒影が「ぐっ」と言ってのたうち回り始めた。
素早く体を転がし表を向くと、あの、隻眼の男が血の滴る刀片手に立っていた。
「人質のくせに見張り夜這いさせるたぁ、大したもんだな」
差し込む月明かりに徐々に表情がわかってきた。笑みを浮かべている。
黒影はどうやら腕一本切り落とされたらしい。
のこる左腕で、飲め、といって置いた水筒の栓を開け自ら飲み始めた。
途端、咳き込むと共に喀血して動かなくなった。
左腕では自害もできず、自ら持ってきた毒で死ぬ。
あ…
その毒水は本来自分が飲むはずだったもの。
あぁ、そういうことか…拙者を…消すために送り込まれたのか
もう必要…ない…と…
どこかでこういう結末を想定しても遭遇することの違いを改めて思い知る。
逃げよう、という気も失せる。
いったい自分は何の為に、誰の為に暗殺という仕事をして来たのだろうか。
存在意義。そんなものなど。
拙者には なにも ない
「てめぇあれくらいじゃぁ、びくともしねぇらしいな…
もっとも拷問のうちに入らないだろう。
…なるほど、慣れているのか…しかしその慣れももう必要ねぇみてぇだなぇ。おまえさんが守るものなんてもうないんじゃないか」
呆然と足下に焦点をあわせていたが、ゆっくりと近づいてきた男を
目一杯睨み上げる。体はまだ一カ所も自由になっていない。
そのまま軽く蹴飛ばされ、うつ伏せになった。その腰の上に、文字通り馬乗りに跨がれる。
背後から耳元に顔が近づくのが薄暗がりの中空気の流れで感じることができる。
「ククッ…いい目しやがる。おめぇさんは苦痛には慣れてるときた。
…なら…快楽というのも苦痛の一つだということを知ってるか…」
猿轡をぐっと引っ張られ喉から胸にかけて仰け反る。肋骨がきしみ思わず
「ッア゛…」
と唸る。
縄を引っ張りながら耳の後ろを舌が舐る。血が止まった傷口を通過する。
乾燥してできた瘡蓋が舌で嬲られ再び湿り気を帯びる。
徐々に耳に感触を感じる神経が呼び戻され、他の部位への痛みより、
その耳を這う舌の感触を肌が感じ取っている。腹のあたりがぞわり と動く。
「…う゛っ…っっう゛」
快楽とは認識したいくないその刺激だが猿轡をされた咥内が潤ってきた。
口角と縄の間に唾液が染み、頬に伝わる。
仰向けに転がされれば、後ろ手に縛られたままの手首が背骨にあたり折れたあばらに響く。
着流しがはだけ、露になった腹部を指がゆっくりと這い回る。
まるで素肌に蜘蛛を放たれたような感触。
折れたあばら骨の位置も正確に読み取っているような動き。
気味悪いほどに刺激をせずしっかり撫でた後に 舌を這わせる。
苦痛を凌駕する、じわりと立ち昇ってくる快感。抵抗する体力はもう残っていない。
しかし耐えたところで何があるわけでもない。
口が塞がれていてよかった。気を抜いたら感じるままに声を…出し始めてしまうかもしれない
その指が腹を駆け下り体の中心を捕らえた。
「ぁ゛っくっ…っっう」
指が絡み付く。
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湿った音が響く。
全身を嬲られた唾液と
もはやどちらのものかわからない、何度か吐き出された白濁した液体と
側に転がる死体の血液の真っ赤な水たまりに片足を突っ込んだまま
そして
「はっ!その目っ…いいぜ、お前そそらすねぇ
男に犯されながらもしっかり目ぇ開けてるたぁ、いい度胸だ」
腰を打ち付けられながら髪を引っ掴まれる。
「何考えていやがる…コレが邪魔で言いたいことも言えねぇか!外してやるからせいぜいいい声で鳴けよ」
擦れた声を吹き込まれ、くしばっていた猿轡に手がかけられる
っ!やめろっ!外すな!
「ア゛ッッ…はぁはぁっ……っ殺せっ…殺せっ」
「死にてぇと思ってるヤツ殺すほど楽しくねぇことはねぇな」
洗いざらい喋ってしまおうか。しかしそれは命乞いの様だ。
そんなことはしたくない。このまま黙って、何も無かったように消されるのが自分にはお似合いだ。
「殺せ?甘えんじゃねぇ」
そういいながら、口づけをされた。長く体中を這い回った舌が口に戻ってきたような
そんな感覚に陥る。ゆっくりすくいあげるような動きに自分の舌が意識と関係なく追いかける。
鉄の味がする。
悔しい…のか…
鼻孔の奥がジンとする。じんわりと、諦めと憎しみが湧いてくる。
何にだ?この男に?拙者自身に?自分を見捨てた全てに?
生きる事に?
「そうさな…悔しかったら 生きて 復讐でもしてみろ」
「この場で殺されないくらいひでぇことは、今後そうそう起きねぇだろうよ」
まだどろどろとした床に寝転がりまどろむ己に、
三味線が投げられた。
「まぁまた…縁があったら…三味線合わせでもしようや…俺も嗜む程度に弾けるんでな。楽しみにしてんぜ」
去ってくその人物の踝を ずっと見つめていた。
…end
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ううう、私なりの、高杉と万斉のファーストコンタクトでした。
収集つかなくて時間かかった;;絡み始めてから早かったけど。変態だな!
りょう/までんの以蔵のシーンとか辛かったけどちょっと影響されてます。
そしてだいぶ削って削って。単なる状況説明だけで1話できそうでした。
なんも楽しくないけどww自分が設定ぶれないようにする為のメモ。
さらに補足妄想としてこの場から逃れた万斉は三味線一つでさまよいつつ音楽の道で才能開花!みたいなね、
で、つんぽになった後再会!とかだったら…という妄想でパーンしてました。
骨組みが出来てから原作には登場するしいろいろハァハァしましたが、高杉の人物補完ができて良かったです。
読んでくださってありがとうございました。
2010,7,17
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