By the way

 

 

 

昼にもの凄い勢いで降ったにわか雨で

校庭に湖が現れた。

バケツをひっくりがえしたような雨は、何かの間違いだったように止み

教師用の駐車場に止めてある車が光っている。

 

並べられた車のスペースの、隅の方へ追いやられたバイクやスクーター、自転車が数台。

濡れてしまったそれらをせっせと拭く教師の姿はなんというか、滑稽だ。

 

 

 

 

 

河上ィィ!!

 

バコッ

 

ヘッドホンを付けた長身の後ろ姿を思いっきりはたいてやった。

だいぶ生徒がはけた昇降口の細い簀の子の上。

靴を履き替え起き上がったところに隙をついて攻撃する。

そして素早く足下を盗み見る。

ちょっと体勢が前のめりになりつつすぐに立て直し

はたいたことをなんとも思っていないような無表情で目線だけ上から

チラリと向けられる

 

「何か用か」

 

もはやヘッドホンを外して話を聞こうという気はさらさらないらしい。

こういう所がイラっとくる。

 

こちらもへらっと笑って少し小声で言ってやった。

 

「万、斉、先輩ィ、今日バイクで通学したっスよねぇ?私急いでるんっスよ、途中までお願いしますヨ」

 

「…なぜ知っている」

 

「その靴の時はバイク使ってんの知ってるっス。私のこと甘くみんじゃないよ!」

 

「…かまわぬが…そのかわり…」

「あー、はいはい大丈夫っス!乗せてくれたらちくらないッス」

 

「それは当たり前だ。あと、そのスカートの下にジャージを着用せんと乗せることは…」

 

「と、思って既に履いてるっす」

 

捲し上げていたジャージの裾をすとんと落とした。

あきれた顔をされたのは無表情ながらわかった。

 

 

バイク通学は禁止なので、学校からやや離れたスポーツセンターの駐輪場に止めている。

そこへ向かうため裏門から出ようと歩いていた。登下校で使用する生徒も多い。

すぐに道路に面した裏門の先に、まるでうちの学校の生徒専用のような押しボタン式信号の横断歩道がある。

横断歩道には所々プラタナスの葉がちらばっていた。

さっきの雨で落ちたのかなー…なんて思いながら、ちょうど裏門を超えようとした時に

 

後ろから底抜けに明るい声がした

 

「あっはっはっはー!こりゃぁかわがみ君とこじま君じゃながか!」

 

「あ、坂本先生…こ じまじゃなくて き じまです。いい加減覚えて欲しいっス…」

「同じく、かわ か みです…」

 

「あっはははーすまんのぉ!」

 

先の雨の湿気のせいなのか、いつも以上に頭はもじゃもじゃしていた。

しかし傍らにはバイクを引いている。

 

「あれ?先生バイク通勤なんスか?さっき駐車場で一生懸命バイク拭いてたの、坂本先生かぁ」

 

「そうじゃぁ!昼の雨にやられてしまってのぉ…わっしのかあいいマシンがずぶ濡れやき」

 

今日は補習とかないんですね、これからデートっスか?などとからかいつつ

河上は横でまじまじとバイクを見て言った。

 

「…カワサキ…か…なんてマニアックな…」

 

「お?万斉君、わかるかぇ!この渋っい深紅がイカしとるじゃろう!ええマシン作りおるのにのぅ…二輪撤退なんてかなしいぜよ」

 

つっこんだ話をすると河上がバイクに乗っているのがバレるんじゃないかとひやひやしたが、

(男子なら興味があって当たり前か…アレ?今、先生河上のこと名前で呼んだ…?)

わずかな違和感を抱きつつ。

 

坂本先生はもじゃもじゃ頭をボディーの一部と同じ深紅のヘルメットの中に押し込め、跨がってエンジンをかける。

その全体像だけ見ればいつものよれっよれの白衣姿より少しはかっこいいなぁと、思った。少しは。

 

車が迫ってないことを確認しつつ歩道から横断歩道手前の車道にそろそろと降り、

本格的にドルンという音と共に発進した。

 

 

発進してすぐ、横断歩道の白い塗装部分を後輪が超えた瞬間、坂本の乗ったバイクはバランスを崩した。

ギュルッという音とともに目の前でバイクが横転する

 

「あっ!」

思わず大声を出した。

 

乗っていた坂本先生は素早く片足をついた様子でバランスを上手くとってハンドルは握ったまま、

バイクの下敷きになることを避けた。幸いスピードもまったくない。

しかし完全にバイクは横転した。

 

 

起こさないと!とは思うが車道に飛び出すわけにも行かず、あ、今他の車が来たら…!!!

 

 

と思ったら。

「ピヨッピヨッ」という信号音が流れはじめ歩行者側の信号が青になる。

車道側の信号は必然的に赤。

もし横転した先生めがけて走ってくる車があれば、横断歩道の手前で一旦止められる

 

あぁ、よかった、タイミングいい!

それより早く起こさなきゃ、河上ィ!あんた早く助けるッス…ってアレ?

 

すぐ隣に居たはずの河上がいない。

 

横転したバイクから視線を外すと数歩先の横断歩道の手前にある押しボタンの所に河上が突っ立て居た。

 

あっ!!!!!!

 

そうか、河上が咄嗟に押しボタンを押しに行ったのか!だから車道側の信号が赤になって…

 

なんて合理的な判断を一瞬で…

 

ようやく状況を理解しつつも歩行者用の信号はピコピコと点滅し始めた。

坂本先生は素早く体勢を立て直していて、バイクを起こして引きながら小走りで門の手前まで戻って来た。

先生が戻ったと同時に今度は車道側の信号が青に変る。普通に車が走り始めた。

河上もこちら側に歩いて来た。

 

「先生ィィィィ!!大丈夫っスかぁあああ!」

 

「あっははははーー!驚かせてすまんきに!さすがにわしもちくっと焦ったぜよ!路面塗装の部分は滑りやすいきにね」

 

「…」

 

「万斉君!咄嗟に素早い行動、助かったー!いやぁナイスジャッジぜよぉ!おおきに!」

 

ばしばしと河上の肩を叩く坂本先生。うん、やっぱり万斉って呼んだっスよね…?

 

そのとき頭上から声が降って来た。

 

「坂本せんせーー!だっせぇぇ!カッコワリィィィィwwwwww」

 

見上げると銀八先生が3階の通路窓から私達を見下ろしていた。遠目だけどニヤニヤしているのはわかる。

 

 

「あっはっははははーてめぇもスッ転べばええ!金八ィィ!!落書きされたベスパですべればいい!!」

 

「な ん でぇ す かぁ?」

 

ばかばかしいやり取りが大声で交わされる。

 

じゃぁ、帰ります、先生くれぐれも気をつけて、と挨拶し、その場から一刻も去りたいような雰囲気で背を向けた河上を追った。

 

「しかし坂本先生、怪我無くてよかったでっスね」

 

「…」

 

「河上も本当、判断早くてびっくりしたっス」

 

「…まずい」

 

「は?」

 

「ちょっと迂闊な行動だった。バイク通学、バレるかもしれん」

 

あの教師達は意外に鋭いからな…といいながらちょっと苦い顔をした。

 

 

 

その雰囲気に、坂本先生が河上を名前呼びだったことが頭によぎった。

 

が、今の河上の様子に、軽くその理由を尋ねることがなんとなくできなかった。

 

そしてあんな横転を見た後、バイクの後ろ側に乗せてもらうのは、ちょっと怖くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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また3z書いた。なんだろう、夏だからかな。勝手に坂本先生もバイク乗りにさせちゃいました。なんかアリかな、と思って。

バイク乗りは車よりも横転や身の危険が多いので乗りながらもかなり頭を使うとのこと。

そしてもしもの時、意外と咄嗟の判断が頭をよぎるらしいです。

なので自分以外の場面に遭遇しても、ついバイク乗りの行動に出てしまった万斉。

先生方はピンとくるでしょう。そしてそこはかとなく坂万のかほり(2010,6,24)

 

 

 

 

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