Friday midnight blue 9

 

 

 

 

知人から「おい、今夜だけ部屋貸せ」というメールが届いており、有無を言わさぬそのメールの勢いにため息を盛大に吐いた。

行く当てのない金曜日の夜。

 

さてどうしたものか。

 

事務所に戻って寝る

イヤイヤイヤ!それは無い。一刻も早く帰りたかったのだ。

何が悲しくて金曜の夜に仕事場でなんか寝泊まりするものか!

 

手当たり次第電話!!!

坂本ぉぉぉお出ろよぉぉぉ!あいつんち確かそんなに遠くないはずだ。

女とかいそうだけど知ったこっちゃねぇ、

いっつも迷惑かけられてるのはこっちだ。たまにぐらいは恩返ししてもらわないと!

 

トゥルルルル

 

「お!金時~ひっさしぶりじゃぁ!なんぜよ?ラヴコールかぇ?」

 

「ちっげーよ!ちょ、おい今どこだ?自宅か?ちょっと鍵無くしちまって今から行くから今日泊らせろよ」

 

「あっはははははー、いつもだったらウェルカムなんじゃけどちっと今家を空けておってな、あ、忘れておった!この電話、国際電話じゃぞ

わしは今ニュージーら

 

ブチッ

 

「先にそれを言えェェェエエエエ!!!!!」

 

ったく無駄に金かかっちまうじゃねぇえかぁあああ!

坂本にうっかり電話して国際電話で法外な通話料になることは以前よくあった。

今日はまだマシな方だ。

 

数名に当たってみたが金曜日の夜、そっぽをむかれるばかり。

ちっきしょう!覚えていやがれ!

 

 

そのままいつものように土方の店に飯食いに行った。

あれ?今日ジミーいないの?ふーん、そうなの。

(こいつに頼むのも借りを作るみたいでイヤなんだが背に腹はかえられない。状況を説明する)

 

「てなわけで、一晩泊めてよ。知人が部屋使ってんだよ。」

 

「ハ?お前怪しい商売に部屋貸してるのか?」

 

「や、違げぇぇよぉ!」

 

というやり取りの後、ジミーがいない分

店の片付け手伝ったら泊めてやる、という交渉が成立し

 

なんとか今日は眠る場所確保だ。

 

 

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向かう途中、コンビニに寄ってつまみやら酒やら買い込む。

深夜のコンビにはカップルが一組。

いちゃいちゃしながら生活用品棚あたりをうろつかれると…

なんだかねぇ、よござんすね。

 

駅に割と近い土方の自宅。

シンプルなワンルームにロフト。料理従事者らしく、台所はワンルームにしては広めだ。

見える位置に食材は…置かれていない。

へぇ、結構綺麗にしてんだな。初めての場所はとりあえず観察する。

 

でもなんか妙な、違和感。

 

 

「お前、彼女とかいねぇの?結構モテんだろう。なんっつうか…女っけねぇなぁ」

 

「あ?そうだな…今は…いねぇな。そういうオメェは上辺だけって感じだな。しっかし転がりこめる女の家の一つや二つねぇのかよ。それも空しいな」

 

「うるさいよ。お前にいわれたくねぇ。じゃぁおまえ最後にヤったのいつだ」

 

「あ?女と?」

 

「は?お前女以外だったらどうすんだよ。」

 

「男と?」

 

「なんで疑問系?…え…ってかマジでか?男?」

 

ニヤニヤしながらタバコの火をもみ消し床に手をついて

上目遣いで視線を上げる。

 

 

 

「俺バイだから」

 

 

「ええええ!!!!!」

 

「ってかこの前飲んでたとき山崎から聞かなかったのか?(山崎はどーでもいーとこで口が固いな)」

 

「聞いてないよ!聞いてないからね!そんなこと!お前の属性なんて知るかよぉぉ…ちょっとまてコレもしかして俺貞操の危機?」

 

 

はぁ一息ついて。前屈みの体勢からあぐらに座り直す。

また新しいタバコに火をつけてふぅーっと吐き出し飽きれたように一言。

 

 

 

「勃たねぇよ、お前じゃ」

 

 

 

身の危険も然ることながらなんだそれ?ちょっと失礼じゃね?と思ったのも事実で。

いやいや、違うからね、そういう問題じゃないからね

こいつに言い負かされるのはえらく悔しい。

 

 

ちっくしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2010,6,20

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