ゆっくり、と瞼を上げる。
自室の天井に焦点が合い ああ、と意識が戻って来たと同時に
喉元にひりひりとした熱を感じる。だんだんはっきりと痛くなる。
風邪…か…喉をやってしまったでござるかな
身に覚えは…ある。脇にまとめられた紙の束。
楽譜なのだが紙は一度水を吸い込んだ様子で音符が滲んでいる。
そのまま再び乾燥して乾涸びたような状態。紙の滑らかさは無くごわごわだ。
今の自分の喉も同じ状態なのだろう。
水を吸ったのに 乾涸びた状態。
室内にいるのにずぶ濡れになるという酷い目に遭い、
さらに迂闊なことにそのままにしてしまった。どうにかする気力もなかった。
極力原因の人物は思い出さないように、やけくそな態度をとった自分自身を怨んだ。
薄暗い部屋の中、起き上がって 咳払いをし 声を出そうとしてみる
…ヵッハッ
声が、出ない。喉の奥がひゅぅと言ったっきり音が出てこない。
後に残るのはもたつくような痛み。
ああ これは完全にやられた
器官に入ってしまった乾いた空気に咽せ、しばらく咳をした。
その時ざっと襖の開く音がして、後ろを振り返る、逆光と寝ぼけ眼でよく影が見えないが
その影が声を発した。
「よぉ…てめぇ居たのかよ…返事ぐらいしろや」
…
(晋助…)
口を開きかけたがぐっとつまった。声が出ない。
高杉は返事を待つ様子も無く部屋に入り込み 後ろ手で襖を閉めた。
また部屋が薄暗くなる。
キセルの火が蛍のように部屋を移動する。
それを目で追いながら。
…
話があるのなら、声がでないことを伝えねば
と思い周囲に転がった筆でもう意味をなさなくなった楽譜に
「声が出ぬ」と殴り書きをする。
書き終わるか終わらないかでその紙は取り上げられ、
高杉は文机の上に腰掛けた。
「フン」
後は興味無さげにヒラリとその辺に落とされる。
わずかにアルコールの匂いがする。飲んでいた…でござろうか
にしては、なのか だから、なのか
機嫌がもの凄く悪いことだけは感じ取れる
口元に笑みをたたえ、表情さえ大きな変化は無いが
晋助は今、機嫌が悪い
煙を吐き出しつつ、ちらと無惨な姿の楽譜を見た
「雨にでも濡れたか…それとも…」
ガッッ!
文机に腰掛けたまま右肩を蹴飛ばされた。
そのまま立ち上がって畳に倒れた肩を踏みつけ見下ろす。
「万斉…お前、何に濡れて来た?」
見上げた高杉は歯を見せて笑っている。
(心底楽しそうでござるな。しかしなんとまぁ…勘のいい御人だ)
こういう時、抵抗はしない。
だったらどういう時に抵抗するのか…
そんなことを考えながら自嘲気味にニッと口はしを上げてしまった。
その途端、高杉の笑みは消え、まったくの無表情で襟首を掴まれて鎖骨下あたりにドンッドンと握った拳を振り下ろされた。
一瞬、呼吸が困難になる。
「!」
ハッ…ゥ…っっ…ひゅっ … ひゅっひゅっ …ひっ
肺が、不自然なリズムでそれでも空気を吸い込いこもうと必死になっている。
だが空気を吸おうとするとひどく喉が痛む。もう先ほどから唾液を飲み下すだけで激しく痛む。
しかし高杉は容赦なく髪を掴み、引っ張った。
後頭部が畳にこすりつけられジリリと音がする。
首が仰け反って喉仏が浮き上がる。
その骨の、隆起した部分だけを、舌が執拗に舐め回し始めた。
骨の内側は酷く痛むのにその骨を包む外側の皮膚には全身が粟立つような相反する刺激。
体の中心にぐっと熱が集まる
ついに喉が反りすぎて首の皮に顎が引っ張られて口が開いた。
っぅ''…ア''ッッ…ハッ…
「ククッ…声が出ねぇのか…どれ、喉の中見てやるよ」
咥内に指をねじ込まれ口をこじ開けられる。
本当に心底楽しそうだ。
この指に噛み付いてみせようか…
と頭によぎるが思考とは裏腹に舌が勝手に動くだけだった。
侵入して来た指を迎え入れるように嬲る。
「舌動かすなよ、邪魔で奥が見えねぇ」
そういいながら放られていたキセルを逆さに持ち、咥内へ突っ込み吸い口部分で舌を押さえつけた。
「あぁ手前側が腫れてやがるなァ」
心配したふうな声色をだしつつ、覗き込む目は瞳孔が開いている。
喉が開き舌を押さえられ、舌によって留まっていたはずの唾液が勝手に喉へ流れ込んで大きく咽せる。
っヵはっぁっ…はっ…はっ
「ほぅら 声出してみろよ。喉が腫れるまでいい声出して鳴いてきたんだろう…」
違うと首を横に振り、口に突っ込まれた棒を振り払う。
鼻孔の奥に唾液が回った。痛い。
咥内に溜まっていた唾液も口端からつつーっぅと垂れた。
口元に手をあてがいたくなり無意識に動いた腕を、捻り上げられる。
だんだんおかしく思えてきた。こんな状況ではあるが
こんな状況だからか
(クククッ…アハハッ…ハハハハッ)
声が出ない変わりに腹の中で笑い、食いしばった奥歯でギリギリと音を出した
おかしくて仕方ない。
そうしている間に手が体を駆け巡り、中心にたどり着いて、止まった。
「興奮してんじゃねぇよ。どこでナニしてきたか知らねぇが…な…お前が声出すまで、俺はやめねぇぞ」
…
晋助…御主は「鳴かぬなら殺してしまえ」の方が…似合う…
そうしてまた腹の奥で声にならない笑い声がこみ上げてきた。
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再び強制終了!基本的にいっつもですが。
とんだお医者さんごっこプレイですな!
先日の後夜祭で大盛り上がりだったヨダレに滾り、やらかしました。すてきな萌えネタありがとうございました。
設定としては高→(坂)→万でしょうか。別に坂本と万斉は通じ合ってる感情はあるんだかないんだか、いや、ないです。
さてバレない自信のある万斉と追求する気のさらさらない高杉。
夏休みは始まる前までが、といいいますがこの辺も始まる前までが一番楽しいんじゃないかな。
万斉は器用そうなのでいたしてても他のこととか考えてたりしてそう。溺れきらない。
しかし器用なくせにそういうとこ相手にバレちゃうとか、ね。
てめぇ今何考えてやがる?だとか。
そこに相手が興奮するのもわかってて ニタリとか…ね どんだけアバズレにしたいのか私は。
長いあとがきすみません。補足なしではとてもとても…orz
2010,5,26