眩しいような晴天でもなく、どんよりとした曇りでもなく、
薄日が射す穏やかな日。
こんな日はバイクの手入れを。
洗車まで一気に。
基本的に自分のことは自分で行う。
三味線の調律、刀の手入れ、当然バイクも然り。
自分のものをあまり他人任せにしたくない、というのもそうだが
残念ながら命を奪う役割をしてきている故、
その逆も想定するべき日常に自分はいる。身近にあるものは己の責任で。
まず薄暗いガレージから愛車を外へ引きずり出す。
そしていつもの場所にあるであろう、道具一式も外へと思ったが
いつもの場所に、ない。
はっとして振り返ると、入り口から逆光で細かいパーツはわからないが
そのシルエットだけで用意に誰か想像できる、人物が立っていた。
「あっははははー!道具はここぜよ」
「坂本殿。なぜここに」
「ん?そりゃぁ、おまんにまぁ会いたくなったきに。こうしてここにおる。」
「あいにく、これから用事がござる。その道具を返してはもらえぬか」
「固いこといわんとー!手伝うきにね」
そういいながら道具をバイクの前まで運び黙々と準備を始める。
どうしてこの男はこのタイミングで現れるでござろう
呆れつつ眺めていたが、一応知識はあるような準備の様子だ。
船を操るぐらいならば、その知識を近いものがあっても何らおかしくない。
もちろん完全に信用などできない。
坂本の手元を盗み見つつ同じようにしゃがみ込んで手入れを始めた。
徐々に気温が上がってきたように感じる。薄日だったはずがいつの間に日差しが差し込む。
油まみれになっているのはわかっている手で額の汗を拭った。
気づくとあの男がいない。
「万歳くーん、ほな流そうかの!」
声の方へ目をやると幾重にも巻かれたホースの束をもって坂本が戻ってきた。
ホースの先を見ると…シャワーヘッドがない。
庭の水まきではないのだ。そのままでは愛車に傷が付くかもしれない。
「坂本殿!そのままでは…」
声をかけ勢い良く立ち上がった瞬間、世界が斜めに歪んだ。
立ちくらみだ。
あ、まずい、と思った時にはもう遅く、
近くまで寄ってきていたホース片手の坂本めがけて倒れ込んだ。
「おわぁ!万斉君!!」
ほんの数秒意識が飛んだあとめの焦点を合わせる。
だんだんと明確になる状況、倒れた時の痛みがあまり感じなったのは
どうやら坂本がもってきたホースの束を下敷きにしりもちを付いたからだ。
地面が不安定なのは立ちくらみが残ったからではなく、ぐなりとつぶれたホースのせい。
当の坂本は自分にはじかれて下敷きにはならなかったようだ。
あははは、と地べたにすわりこんで頭を掻いていた。
座り込んだままホースの先端をたぐり寄せて
「シャワーヘッドがござらぬ」と坂本に示す。
「おおぉぉ!そうじゃった!そうじゃった!ん?しまった万歳君!わしゃぁ蛇口捻ったままぜよ!そろそろ水が…」
なに?
坂本がホースを担いできてから自分が倒れ込んで、と思うとほんの一瞬の出来事だが
長いと言えどホースの出口に水が到着してもそろそろおかしくない…
ホースの先端を握る手にぐっと力がこもる。
そして立ち上がった途端、手元のホースの奥からゴボゴボッっという水のうねりが聞こえた後
ぶしゃぁぁぁぁっ!!!!
っと勢い良く水が流れ出した。先端を握って出口を狭めていたせいか、
水が真上方向へ細かい水滴となって舞い上がり降り注いでくる。
握ったホースを手放すこともできずなるべく自分から遠ざけようとすると、
目の前にいる地面に座ったもじゃもじゃ頭にどんどん降り注ぐ。
自分がホースを踏んでいたので水の流れがせき止められていたのだ。
今、それが勢い良く吹き出す。
もじゃもじゃ頭の男は降り注ぐ水に怒り出すこともなく、足をばたつかせ相変わらずあっははははーと笑っている。
(いつも好き勝手されている。多少の仕返しでござる)
そんなことを思いながらその様子を眺めた。
そして笑っている男がゆっくりと丸いサングラスを外し、言った。
「まっこときれいじゃのぅー、万斉君もそのサングラス外したらええが!!」
「?」
「ああ、その水しぶきに虹がかかっちょる」
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まさかのほのぼのエンド。バイクのお手入れに関しては詳しくないのであしからずすみません。
万斉お誕生日オメデトウ!私からのプレゼントは虹です。ホースとはあんまり絡んでませんが、
このあともじゃもじゃがホースでぐるぐるまきして担いでお持ち帰りをすればいいと思います。
(それを書けよ…)
嫌がらせしかしてない坂本が万誕のダークホースになりました。はい。だじゃれです。
2010,5,20
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