Friday midnight blue 8

 

 

Friday  midnight blue 8

 

 

 

先日は面白い物を見た。

 

面白い、といったら多少失礼になるのだが、例のずーずーしい金パツ男と偶然遭遇したのだが

そのいつもと違う様子に驚いたのだ。

まぁ一言で言うと落ち込んでいるというか。

本人も「気が滅入ってる」なんて素直に言うもんだから調子が狂う。

危なっかしいんだよ、駅とかでああしてる奴。

春だし。

 

しかしあのふてぶてしい野郎の素直な様子と遭遇したらなんつーか、

かわいいもんだな、とも思う。人間味が垣間みれるというか。

客商売してるせいか、だいたい第一印象で人物を捉える事ができるのだが、

あいつはなんかつかみ所がなかった。

かと思えばこの前のような事もある。

 

下ごしらえを進めつつ

ずっとそんなことを思い出しながら手を動かしていた。

切れ味の良く長い刃渡りのナイフでマッシュルームを薄くカットしていく。

 

気にくわねぇ野郎には変わりねぇが。

 

今日は手が早く進む。料理の良いところってのは、無心で手を動かす事もできるし

なんか考えながらでも作業が進むところだ。

もくもくと包丁を動かしてる時にその料理のことだけずっと考えたりはしないし、

慣れてくれば刃物の扱いなんて常に考える物ではない。

 

「おはようございまー…す…。あれ土方さん早いですね」

紙袋を抱えた山崎が裏口から入ってくる。袋からはみ出た食材を顎で抑えながら器用なもんだ。

 

「あ、その作業なら俺がやったのに。どうしちゃったんですか?包丁さばき全開で。なんか良い事ありました?」

「あ?なんもね-よ、相変わらずお前返しがおもしろくねーな。もうちっと気の利いた事言えよ」

 

そういいながら、集中力切れた、一服してくる、と言って裏へ出た。

 

 

あれ?俺機嫌良かったのか?なんかあまり自覚ねぇな。

あ、そうか、きっと気にくわねぇ奴が落ち込んでたからか!

ザマァミロって思ったけど……いや、なんか違うな、

 

煙を吐き出しながら、その煙上に記憶を写すように思い返してみる。

まるで漫画の回想シーンのように。頭から吹き出しがでているイメージだ。

 

(あの時、妙に大人しかった。挑発にも乗らねーし。

 わけもなく気分が滅入るって言ってたな。

 まぁ自分にもあることだからなんとなくその気分はわかる。

 …と思ったが、あいつにそういう部分があることが意外というか妙に安心した、というか…)

 

安心…?

 

なんだこの感情は。

人は、人間らしいところ、というのを垣間見るとこんなに気分がかわるものなのか

 

…くそっ

 

タバコを持った手の方で前髪をぐしゃりとつかんだ。

 

ジッ…

タバコの先が毛先に触れ、前髪の一部が縮れた。

 

山崎がプッと笑ったところを見逃さず

頭をはたいてやった。

 

 

 

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