First contact 9
暦の上ではもう春…というのもほど遠い深夜。
外気は寒い。
コート、着てくりゃよかった。
ハ、と吐いた息が白く、土方は冷えた体をすこし温めようと
十数m先のコンビニの光に向かって歩みを進めた。
コンビニをはさみ、前方、等距離から同じようにとぼとぼ歩いてくる影が見える。
その影より一足早くコンビニに入り雑誌コーナーで一服。
今日はマガジンの発売日だ。
遅れて入って来た影…特徴は前髪の伸びて目の見えない忍装束。
同じように雑誌コーナーにやって来て下段を覗き込みうろうろ。
いくつかひっくり返った雑誌を手に取り、土方の足下にある雑誌が見たい様子。
っちなんだよ、人のこと邪魔しやがって。
ちょっと立ち読み、のつもりがそのまま雑誌を手に持ち缶コーヒーを足して
レジに持っていった。レジでさらにタバコ追加。
パトカーに戻って読もう。
背後から視線を感じる。
なんなんだ。
コンビニ前で缶コーヒーを開けたとき雑誌コーナーでうろうろしゃがみ込んでいた男が出て来た。
思わずその男を見る。と同時に相手もこちらを見ていた。
正確に言うと目が見えないので顔を向けていた、が正しいのだが。
「おにーさん、それジャンプ?じゃない…よねぇ?」
「え?あぁマガジンですけど」
「そうだよねー、うん、そうだ、ジャンプは人気誌だからマガジンが発売されるこんな曜日まで残ってる分けないよね…そうだよね…ああ買いそびれちゃった。マガジンでも買っとくかなぁ」
ちょっとカチンときた。
「おい、テメーマガジンでもってなんだよ、マガジンに失礼だろ。そんな奴に買って欲しくネェな」
「あ、そう、発行部数に貢献しようと思ったんだけど、うん、やめとくわ」
ふと、お互い大人げないやり取りをしたことに我に返る。
(なんだよ…)
「…冷えるな…本当に桜なんて咲くのかよ…」
「…え、あぁ、夜この寒さはきっついな。おにーさんこんな深夜までお仕事?っていうかその制服は…お勤めご苦労なこって」
「ってあんたも忍装束の割にはぜんぜん忍んでないんだけど?」
「ん?あ、これ?これコスプレだから。ニンニンピッツァの制服、バイトの制服」
「そうか。まぁこんな堂々と怪しい格好するわけもねぇわな」
そう言い残すとコンビニを背に土方は歩き始めた。
コンビニの光は徐々に遠くなり、そのかわり闇の淵が近づいてくる。
歩きながら買ったタバコのセロファンを剥く。
トントンと箱を叩き出て来た一本を抜き取る。
タバコを銜える前に箱を胸ポケットにしまい、そ、っと刀の柄に手をかける。
「火ぃねーんだけど、貸しくんねぇか?」
…
ボッ
暗闇からすっと火の玉のような炎が差し出される。
軽くタバコを炎に交わし火をつける。
一服深く吸い込み、はぁーっとため息のように吐き出す。
「男に火付けてもらうってのも味気ねぇな。なんだ?そりゃ?術の一つか」
「へへ、火の玉なんてお易い御用でな。なかなかいいもんだろ火の玉ライター代わりにすんのも」
暗闇から先ほどコンビニで見かけた男がゆっくりと姿を表す。
手のひらに火の玉をのせて。
「どうせなら美人なくの一にでも付けてもらいてぇもんだな」
「由美かおるのような美人忍者なんてそうそういるもんじゃねぇんだよ、
って刀から手離さない?付いて来ちゃったのは謝るから」
「おめぇが後ろ手に隠してる小刀から手ぇ離したらな」
「っち、さっすが副長さんだ」
「てめぇもな、バイトの割には大したもんだぜ」
「あ、ピザ屋は本当よ。付けたのは俺の感だ。なんか情報拾えるかと思ってな」
「情報なんて持っちゃいねぇよ」
「わからんよ?おまえさんの吸ってるそのタバコの銘柄。それだって有益な情報になりうるゼ。
知らないうちにこっそり中身が変えられたりしてな…」
目の見えない表情でニヤリと笑う。
その様子を見た途端、なんだかいつものタバコの味が違って感じるから不思議だ。
「ま、ちょぉっと興味が湧いただけだ。だいたい松平のオッサンにはこっちも世話になってるからな」
(…なるほど、元御庭番、か…)
「男に付けられるなんてごめんだぜ」
「俺にもそんな趣味ねーよ。付いていくなら女だな、特に醜女に限るぜ」
そういいながら背を向け歩き出したかと思うと手のひらの火の玉をひょいと放り投げ
もう一方の小刀ですぱっと真っ二つに切り裂くと火の玉は跡形もなく消えた。
それと同時にそこにいた忍びの姿も消え、
暗闇だけが残った。
狐にでもつままれた気分だ。
そう思いながらパトカーへの足を速めた。
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由美かおるよ、永遠に!って黄門引退記念ではないですよ
なんか淡々とした話に。特に萌え要素を刺激しない二人組。
でもなんか気になる組み合わせ。(2010.4.5)
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