First contact 8
目の前にもじゃもじゃ頭の男がひとり。
顔をやや青くしてへらへらと笑っている。
幕府からの許可を得て真選組に新しい武具の購入をと、直接貿易商と話を付けに来たのに
目の前の男はどうみても…
こちらの正装に対しなんというかラフで足下はゲタ。おまけにサングラス着用で頭は髪がうねりぐるぐるしている。
「坂本辰馬殿、とお伺いしているが…」
「あぁ、そうじゃ、わしは坂本と申す。おんしは…真選組のイトイ君?」
「伊東です。これから武具についてなにかとお世話になるとおもうので何卒、よろしくおね…」
「あぁ、もぅ、ええ、ええ。堅苦しいのは苦手じゃぁ〜しっかしイノウさんは賢そうなお顔をされちょりますなぁ」
「伊東です」
名前も名乗ったのにこの間違えよう。
それでなくても伊藤と間違えられる事がほとんどなのに今度は呼び方まで間違えられるなんて。
ちょっと伊東はイライラしてきた。
そうなると相手の一挙一動が気になり始める。
ゲップをしつつ胸元をさする。
「じつはのぉさっき地球についたんじゃが、船酔いしてもうての…」
自分の表情がますます険しくなってくるのがわかる。
その様子を察したのかどうか、坂本はちょこんと座り方を直し冊子を2、3冊並べた。
「武具っちゅーても、ピンキリじゃぁ。この冊子にわしのおすすめをまとめておいたき、
選んで快援隊に連絡してくれりゃぁ、すぐ届けるろー。」
簡単な仮契約を済ませ「本日はお忙しいところ…」などという儀礼的な挨拶を交わし
立ち上がり坂本を送り出そうとした。
すかさず握手を求められる。
あまり他人の手に触れるのは嫌いだ。それにこの男、さっき頭を掻いたりしてどこを触って来たかわからない。
どうやってかわそうか…
一瞬の躊躇に握手を求めていた坂本の手がぴくりと動き、
「伊東さん…疲れとるのではながか?もう少しおんしの余裕のある時にまたお会いしたいぜよ。もう少し気楽にの」
そういうとその手は伊東の頭をポンポンと軽くなぜた。
子供にするようなその仕草に急に恥ずかしさがこみ上げる。
一瞬の感情の機微を読み取られた。
「坂本殿、僕は疲れてなんか…」
急に坂本は両手で自分の口を押さえた。
「うっっ…いどいぐん…ぎぼぢわる…い…がわや…どこ…じゃ…」
青かった顔が土気色になったかと思うと
そのままバタバタと部屋を飛び出し走り出した。
「厠はー!突き当たった右側だー!!」
ありったけの声で叫んでいた。
思わず「厠」という単語に通路にいた人間達が一斉に伊東を見た。
廊下に響いた声は坂本に届いただろうか。
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鴨は色々ものに対しちょっと潔癖っぽい。
なんか握手とかも極力避けそうだなと妄想。
鴨は他人のペースに巻き込まれるのが苦手そうなので
近藤サンとか特に坂本なんかは一番苦手なタイプじゃないかと?
司馬伊東もくそ真面目、冗談の通じないキャラで書かれてること多いですが。そういうイメージの鴨。
(2010,3,23)
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