Friday midnight blue 7

 

 

 

Friday  midnight blue 7

 

 

 

たまにある。

 

唐突に気分が落ちる。

これはあれだ、ほら、なんか曇って来たし気圧が下がるとテンションが下がる、

というか

 

 

ふいにどうしようもなく落ちて来たテンションを引き上げることも出来ずに

金時は職場を離れた。

 

(何をやってもだめな日はある。こんな時は大人しく家でじっとしてよう)

 

人の波に流され地元の駅まで漂流するんだ、俺は

ん?今日はなんかいつになくセンチメンタルだな。

疲れてんのかな。疲れたんだな。

 

朦朧としたまま押し出された駅は地下鉄から乗り入れている地上線の高架ホーム。

いつのまに帰って来ていた。

車内の熱気に当てられ立ちくらみがする。

だめだ、このまますぐに動けない。

 

目の前にあったベンチに腰掛け、首周りに巻いていたものを緩める。

とたんに夜の空気が喉回りに触れ、すこしスッとする。

 

ああ、夜風は肌寒いぐらいでちょうどいいな

 

一通り乗降車が終わり人がはけてホームには人がいなくなった。

だらりとベンチに腰掛け上空を仰ぐ。ちょっと目を瞑ってみた。

 

 

 

「お客さん、終点だよ」

 

特徴のある低い声にれうっすら目を開ける。

つま先をコツンと蹴られた。

目の前に煙草をくわえた黒髪の男がポケットに手を突っ込み仁王立ちしていた。

 

「凍死でもする気だったか?悪ぃな邪魔して」

ニヤリと口角を上げる。

 

「…駅員さーん、終日禁煙のホームで煙草吸ってる奴がいまーす。」

「おぃ、俺は加えてるだけだ。断じて吸っちゃいねぇそこは大きな違いだぞ。

ってお前こんなとこで何してんの?飲み過ぎかよ?」

「何してんのっておま、ここ俺の住んでる駅。金さん疲れて帰って来たの。

っていうかお前こそなんでいんだよ」

「あ?あぁ俺はなここの駅に知り合いの店あるから話聞きに来てた」

 

たばこを外しカートンに戻しながら金時の隣にどさっと腰掛ける。

 

「悪ぃもんでも食ったか?顔色悪ぃぞ?いっちょまえに失恋でもしたか?」

「そんなんじゃねーよ。いや、なんかすっげローテンションでさ…。気が滅入ってる。

原因が思い当たらないから、余計にしんどい…」

 

「…おまえでもそんなんなるんだな。へぇ珍しいもん見た」

「…」

 

「ま、何が合ったか知らねぇが、落ち込んだ時にはうまいもん食って

酒飲んで寝れゃいいんじゃねーの?」

 

「…」

 

あれ?なんだこれ?ちょっとスッとしたぞ。なんていうか説明のつかない俺の感情を

コイツが知ってるのってなんつーか、楽、だ。

 

 

「目が覚めて何もかわってなくても、それはそれでいいじゃね?よくわかんねーけど。」

 

土方は足を組み、自分の靴のかかとを眺めながら、煙草の煙がわりに言葉を吐き出した。

 

適度に受け止め適度に流す。ちゃかす訳でもなく。

こいつ自身もこういう感情を持ってんじゃないか…。

 

そう思いながらホームに入って来た電車に乗り込む土方の背中をベンチから見送った。

 

 

 

 

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春は感情が不安定になりますね。夜の匂いは好きなのですが(2010,3,16)

 

 

 

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