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あーー。

 

眉間に指を当てぐりぐりと押す。

 

疲れた。

 

永遠に続くのではないかと思う打ち合わせを終え、もう、いいやタクろう、

と乗り込んだタクシーで荷物を投げ出しだらりと座った。

 

道渋滞している。帰り道の渋滞なら大歓迎だ。

 

はぁ機能性考慮してデザインはエロ可愛くとか勝手な事言ってんじゃねーよ。

もうさ、いいじゃん下着なんか。

みんなノーブラだったら恥ずかしい事とかないよ!しっかし疲れたぁ…

 

 

 

がくん!

 

お客さん、着きましたよ、、あの後ろ車つかえちゃうから…

 

「えっ?あっはぁ、あー、着いたのね、はいはいごめんなさい」

 

急に起こされたため大急ぎで小銭を渡し

慌てて飛び出す。慌てすぎて自動の扉を自分でしめてしまった。

 

ったくなんだよ!そんな急がせなくたっていいじゃねぇか!

 

過ぎ去ったタクシーに悪態をつく。

 

 

あれっ?

 

俺こんな身軽だったっけ?なんか行きと同じ格好に…って

 

 

あっーーーーーー!!!!

 

 

今取引先から受け取った製品の参考サンプルがない!!

やばいやばいやいば、あ、違うやばい!!

あれ今日中に生産工場にエアで飛ばさないと納期間に間合わない!!

 

タクシーの姿はとっくにない

領収書、領収書!ちっ!どうせ経費で落ちないからもらってなかった!!!

 

まじかよ、あれないと本当に困る。

しかも俺が忘れ物届け出してブラジャーとかぜったい探してくれねーよ!

しかもどこのタクシー会社かわかんないし、

 

全身の血が引いて行くのがわかる。

新製品のため機能性の特許まで取ろうとしている製品だ。

万が一同業他社に…まてまてまてまてオチッつけいや、落ち着け。

そのとき

 

「おい、あんた」

 

振り返ると自転車に乗ったままガードレールに足掛けている男が一人。

自転車用メットを軽くかぶり目は前髪で隠れている。

メットのあごひもにかかったあごひげがちらり

 

「今、降りたタクシーに忘れ物?」

 

「あ、そうなんです!ちょっとぼーっとしてて、大事なもんなんですけどタクシー会社もうろ覚えで…」

「中身は?」

「…」

「いえねぇようなシロモンなのね、まぁ良しとしよう。ちょっと待ってろ」

 

というか早いか自転車をすっとこぎだし目の前を

あっという間に過ぎ、先の交差点を右折して行った。

 

はっええ!!

 

5分もしないうちの自転車の男は戻って来た。

自分の忘れた大切な茶封筒を片手に

 

「あぁーー」

 

ほっとしてその場にへなへなとしゃがみ込んだ。

 

「うっわぁすっげー助かった。ありがとうございます」

と言いながら茶封筒を受け取ろうとし手を出したが、ひょいとかわされる。

 

「うん、まぁ全力で追いかけてあげたけど、ただの善意じゃないよね誠意がみたいよね」

 

「ちょっ!おまえ!」

 

「いや、いくらとはイワネェ。この金額なら払ってやってもいい、という値段でいいんだゼ。」

 

相変わらず目は見えないが口元だけでニヤリとした。

こいつ!でもなんかこう、憎めない。こういう商売が専門なのか?

 

 

「じゃぁ…生中一杯!」

 

「お、兄ちゃん粋だねぇ。それのった!」

 

 

冗談が通じる人物のようだ。

 

 

ぽんと茶封筒を渡されすかさず名刺を渡される。

「俺、この辺のオフィス街でフリーの配達業やってんの。今みたいな緊急事態とか

今日中にどっかに提出なんてのあったら区内だったらとどけるぜ。」

 

名刺には「服部便」とある

 

男はあごひげを触りながら

「あ、お前の名刺ももらえるか?生中の報酬うやむやにしたくねぇな」

 

といい、しぶしぶ差し出した名刺をパッと奪い取ると

 

じゃ、終わったら連絡くれよ、と名刺にキスし、また自転車であっという間に過ぎ去って行った。

 

なんかおもしれぇヤツ。

はぁ…でも今日は余計な汗かいた分、生中がうまそうだな。

 

 

 

 

 

 

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