FIrst Contact 6
何だこの音色は。
格調高いクラッシックの奥底から聞こえる、
純粋な音でなくノイズのような。
寺門通との打ち合わせを終えた万斉はロビーのソファに背中合わせに座った人物の音色に耳を傾ける。
そっと背後を盗み見る。座っている人物の襟元をかろうじて見る事ができる。
黒地に銀ふちの服の男が一人。真選組の隊服だ。
襟をやや広げている。スカーフを巻いているのか。隊長格の服装である。
幕吏と会談でもしていたのだろう。さしずめ交渉役といったところでござるかな。
ま、長居は無用。
万斉は席を立ち出口に向かって歩みを進めた。
「伊東先生、お待たせしました。」
「すまんが、篠原君一人で戻ってもらえないか?ちょっと調べ物の予定ができてしまってね」
「お車でお送りしなくてよろしいので?」
「かまわんよ。見回りついでだ」
背後のやり取りに耳を傾けつつも振り返らずに外へ出た。
(伊東…先日の新聞では見なかった名でござる)
細い辻を何度か曲がり、ある袋小路で立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
「拙者に何の用でござるかな」
「ほぅ、ヘッドホンをしていても足音が聞こえるようだね」
そう言いながら伊東は音もなくすぅっと刀を抜いた。
「鬼兵隊所属、河上万斉。人相書きも通っているこのご時世よくもまぁ。僕の目をごまかせるとでも?」
上品な口調に似合わず、眼鏡の奥の眼光だけは鋭いものを持っている。
刀を抜いたところをみると丸腰に見える出で立ちに何か武器を隠し持っている事はバレているのだろう。
命乞いなどするつもりもないが、かまを掛けてみる。
「拙者をここで捕らえれば拙者一人分だけの手柄。
拙者を見逃し泳がせればおぬしの欲しい情報とやらももっと手に入るのではござらぬか?」
「フン、口八丁だな君は。自分の代わりに仲間を売るとでも?」
「賢い人物なら拙者の言わんとしている事が容易に理解して頂けると思うが」
真面目な人物ほど皮肉や口車には乗りやすいはずだ。
緊張が走る。
「…まぁ確かに君たちがいないと僕らの仕事もないんでね。ある意味感謝はしているよ。」
伊東は静かに刀を鞘に納めた。
そして眼鏡の位置を整え、万斉に背を向け歩き始めた。
クラッシックが聞こえる。ざらざらとノイズまじりに。
例えるなら聞き古したレコード。
鋭い針で溝をひっかき、傷つけながらそれでも音を奏でるレコード。
(ノイズまじりの旋律も悪くないでござる)
万斉はニヤリとその後ろ姿を見送った。
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伊東先生と万斉の初対面妄想。
いぼ寺の事件辺りから真選組をマークする万斉。そのちょっと後とかに出会っている?鴨太郎と万斉はどちらから声をかけたか、ということにものすごく悩みましたが、結局万斉について行ったということにしました。口八丁で返り討ち。
しかし真選組はどこまで指名手配犯の人相を把握してるのかなー。
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