FIrst Contact 5
見渡す限り血の海だ。
通報があった料亭の宴会部屋は酒と血の匂いに充ち、
土方は隊服の袖口で思わず鼻を拭った。
「あー、山崎か。升屋が襲撃された。幕吏十数名生存者ゼロ。身元の照会頼む。それと沖田に伝えておけ外堀通り封鎖して一番隊は検問を張れ」
簡単な指示を出し携帯をしまう。
検分は他部隊に任せるが、周囲に転がる数体を簡単に見る。
どいつもこいつも一太刀で切り伏せていやがる。
自分もこんな風に一太刀で切る事ができるだろうか、と心の中でつぶやく。
こういう事を考える時、自分も人切りに違いねぇなぁと思う。
ふ、と見上げると赤い血だまりから廊下に転々と足跡が続いている。
引きずったような足跡でなく、確かな足取りで少しずつ擦れながら続く。
足跡の先は勝手口でまぁ単純に考えればそこから出て行ったのだろう。
血のついた手ぬぐいが無造作に置いてあり、
犯人と思われる人物は事を起こしても慌てることなくこの手ぬぐいで血を拭い、
悠々とこの場を去ったという印象だ。
なめやがって
背後から山崎の声が聞こえ、自分の代わりにここで待機することを命じる。
土方はそのまま勝手口から路地裏へ進んでいった。
屋敷裏の人通りの少ない道に出たとき、
前方に赤い椿柄の着流しの人物が悠々と歩いていた。
半月の月明かりは満足ではないが異様な雰囲気をまとうその人影を照らすには十分だ。
人影が立ち止り袖口に手を入れ探っている。
気付かれたか、と警戒したがその手に持っていたのは煙管だった。
悠々と火をつけ 一服。
「よぉ…さしずめ、血の匂い嗅ぎ付けてたどってきた犬ってぇところだなぁ」
ゆっくりと振り返ったその人物は片目を包帯で覆われ、
赤い椿柄と思った着物は血の花で染まった着物だった。
こいつは…高杉晋助…!
攘夷派の中でも最も過激と言われる重要人物だ。
「…こちらも一服させてもらうぜ」
土方はいつものしぐさで煙草に火をつけ紫煙を吐き出した。
「そんな真っ赤なおべべ来てお出かけとは、大そう優雅じゃねーか。血糊の香水までつけて。お次の宴会会場はどこだ?俺もつれてってくれよ」
「ククク、なかなか面白い犬じゃねぇか。付いてくるのは勝手だが俺ぁきびだんごなんか持ってねェぜ」
というが早いか
キィィィィンン
閃光と共に2つ刀がぶつかり合った。
「あれだけ切り殺しといてずいぶん悠々と逃げてるんだな。体は小柄だがふてー野郎だ」
「ククク、慌てて出てきたところで何も変わるめぇ。お前も俺とおなじ思考回路だからこの場にいるんだろう」
「…」
「人を切った後の行動に覚えがあるから今お前がここにいるんだろう。えぇ?真選組の鬼こと土方さんよォ」
一瞬乱れた呼吸を取り戻す。
「へぇ俺もなかなか有名なもんなんだな」
「ククッお前さんだって大義名分を振りかざしたって所詮は人切りさ」
おまえとおれのどこが違うんだ
おまえも人殺しに変わりないだろう
その腰の刀でぶった切って来ただろう
その時、遺体を見て自分だったらこんな風に一太刀で切り伏せられるか、とつぶやいた感覚がよみがえった。
背筋にひやりとした空気が降りて行く
ガキィィィン
金属音と共に飛びのいてつばぜり合いの状態から間合いをとった。
「大して変わりゃぁしねェのさ」
そういうと高杉は刀を納め再び背を向け歩き始めた。
そして突風が吹き砂埃が舞い上がったと思ったらその赤い後ろ姿は消えていた。
「あぁ、確かに変わりゃしねぇかもな。でもな俺には護るもんはあるぜ」
土方は闇夜に向かってつぶやいた。
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4巻の「幕吏十数名が〜」の行が嫌に断定的だなと思って妄想。
はたして赤いおべべを着た高杉(笑)は本物か幻か
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