(ふむ、良い船だ)
高杉が船を購入した。しばらくはここを拠点に活動するらしい。
なるほど、この広さなら紅桜の量産スペースもとれるだろう。
悪くない案だ。
しかし晋助のような人物に新型の船を売ってくれるとは…どのような人物でござるか?
万斉はそんなことを一瞬考えもしたがしばらく経ってすぐ忘れた。
春雨との1度めの交渉を終え、船にいったん戻った万斉は武市とすれ違った。
「あぁ、河上さん戻られましたか。ちょうどいいタイミングです。
今この船を用意してくれた貿易商の方がお見えでしてね。
河上さんにもご紹介いたしましょう」
と甲板へ向かう。途中、武市は似蔵が怪我をして帰って来たとの報告に眉をひそめ、
「河上さん、ご紹介できず悪いのですが坂本さんという人が甲板におられるので」
と言い残し通路を引き返して行った。
坂本…なるほど、坂本辰馬氏でござるな。
攘夷戦争の折り、高杉と共に戦った主要人物、桂小太郎、坂田銀時、
そして坂本辰馬。
坂本氏は戦後貿易商として星々を股にかけて飛び回っているとは聞いた事のある話しだ。
地球に長い間おらず何も知らなければ船を売ったっておかしい話しではない。
晋助が何を企んでいるかなんて知る由もないだろう。
そんなことを考えながら甲板へ出ると
前方にもじゃもじゃ頭の後ろ姿が風になびいていた。
気づいてはいまい、と一歩足を踏み出すと
「立派な船じゃき、大事に使ってほしいものぜよ」
と振り返らないままの後ろ姿から声が響いた。
気づいていたか、なかなかのものだと関心しながら声をかける。
「武市殿からうかがっておるのだが坂本辰馬殿でござるかな」
「おぉぉ!わしの名前知っちゅうがじゃぁ!こりゃすっかりわしも有名人ぜよ!おおきに!」
そういいながら坂本は気がつくとすごく間合いをつめ、万斉の手を握りぶんぶん上下に揺らし握手していた。
本来あまり人を近寄らせるのが好きでない万斉は自分のペースも乱されてしょうしょうイラっとした。
なぜこんなに近いのか。調子が狂う。気を抜くとハグでもしてきそうな勢いだったので
さりげなく後ずさり、握手で乱れた袖口を直した。
「申し遅れた、拙者、河上万斉と申す。今回はこんな立派な船、皆感謝しているでござる。拙者からも改めて礼を申す」
「あーいかんいかん。そんな堅苦しい話、わしは苦手じゃー。そうじゃ!この眺めの良い甲板で酒でものまんか!万歳君!」
「万斉でござる」
ムッとしてしまいそうになるのをこらえ極めて冷静に勤める。
しかしこの人物から感じる違和感はなんだ?音色は?
相手はへらへらしているのに自分が警戒しているのはなぜだ?
そのサングラスの中から相手を観察する。
そうしているあいだも坂本はぺらぺらと機嫌よく世間話をしている。
万斉はふとある事に気づき 坂本に問いかけた。
「坂本殿は帯刀してござらぬな。道理で間合いが近い。初対面の人間に油断してこんな間合いが近くても大丈夫でござるかな………!」
!!!!
ひゅぅぅ!!!!
カチリ
質問が終わるか否や坂本の腕が一杯に伸ばされ、
万斉のサングラスの中心部に銃口が当てられていた。
「確実にしとめるにはここで引き金を引けば一発でおだぶつぜよ。帯刀していないからといって油断しているのは万斉くんじゃぁなかか?」
「………」
「おっぉと!これはふざけすぎた!いかんいかんすまんのう、万歳君!アッハッハッハッー!」
静かに銃口はおろされ、一瞬丸サングラスの中でぎらりと光った目は
ふたたびへらへらした、気の抜けた表情に戻った。
「間合いが近いといい事もあるぜよ、こんなふうにな、触りたい放題じゃ!アッハッハッ!」
といって去り際に万斉のしりをポンとはたいていった。
万斉はややずれたサングラスを直し、その場に佇んでいた。
これはやっかいな人物でござる、と心の中でつぶやいた。
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坂本と万斉の初対面妄想。似蔵が一度目に銀ちゃんにやられ、その後桂を切る前ぐらい。
鬼兵隊の船は坂本調達だったら萌える。初登場の時、高杉のことあまり悪くは言ってなかったし。
辰馬は果たして晋助の野望を予測できたのか…とか
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